交流の広場
【「造る」シリーズ】
No.01
未来への橋渡し
富士川 かりがね橋
2022 09 26
男たちは 富士川の上にいた
流れに直行する一筋のコンクリートの道
かりがね橋の 真っ直ぐな基礎が
三次元空間に舞う風の中を 裂き貫く
歩む
かりがね橋
富士山の景観に そぐうべく
低く 控えめに その姿を延ばす
事業主体: 静岡県
橋種: 鋼7径間連続鋼床版箱桁橋
一般道路の橋* かりがね橋 の事業目的は:
* 2022年末まで一級河川 富士川に架かる一般道路の橋梁は ①富士川橋(県道 富士由比線) と ②新富士橋(国道1号) の 2橋のみだった。
1)富士川橋*周辺の 交通渋滞**回避・緩和のための 新ルート確保
* かりがね橋の約1.5km下流
** 朝夕を中心に 慢性的交通渋滞発生 Ex.)上下線 26000台/日(2010年/H22年 調査結果)
2)富士川 東西地域間の 交流・連携 強化
ルート選択、移動時間の短縮など 地域内交通の円滑化による 社会経済活動の活性化
例)救急医療センターまでの所要時間 約6分 短縮
3)代替路機能を有する 緊急輸送路の確保
4)環境改善効果: 二酸化炭素排出削減
Ex.)交通渋滞による 20km/h走行から 50km/h走行 に改善されると 二酸化炭素排出量が 約36%減少
2022 09
橋自体の基幹工事を終え
残りの仕上げに 半年を残す 姿
それまでの苦労を…
多くの利用者が 知ることは ほぼない…
目立たない佇まいと映る この橋、
実は 当代の先進的知見が 盛り込まれている
歴史的背景との景観に配慮した結果
橋の配色は 風景に溶け込むよう 敢えて グレーベージュ に施されている
環境への配慮…
富士川と共に
富士山と共に
地元と共に
歴史と共に
安全、発展、利便性…
そして
どのアングルからも
愛されることを 目して
造られた
橋の東岸側には 江戸時代に築堤された 雁堤(かりがねつつみ)、
橋西岸側からは 富士川をまたいで 近景に岩本山、遠方に富士山。
ここまでくるには
並大抵でない それぞれの時代の総力 が投じられてきた
そもそも この富士川は
熊本県 琢磨川、山形県 最上川 と並ぶ
日本三大急流河川の一つ。
全長 約128km、
南アルプスを源流とする釜無川 と 秩父産地を源流とする 笛吹川 が
甲府盆地で 合流、
3000m級の山々を水源としながら
静岡県 駿河湾に 注ぎ込む
かりがね橋
かりがね (雁堤) という名称の由来は
堤防の形が 雁が連なって飛ぶ形 に似ていることから ついた
この一帯は 昔から 治水に知恵を絞ってきた地域
岩本山から 松岡神社に至る 全長2.7キロ規模
実は 雁堤 (かりがね堤)は
氾濫原地域を「加島五千石の米ところ」という豊かな新田平野に生まれ変わらせた堤防で
江戸時代初期より 富士川東側の下流地帯において
富士川を西側に流すことを目的に
古郡家18代当主 孫大夫 重高 以降、 重政、文衛門 重年と 古郡家三代が 莫大な経費を投じ 治水の工夫を施し
50余年かけ完成させた
治水工事 と 新田開発 の要
今も現存する大規模な雁堤は
この地を愛し
なんとかして ここに住む者たちの 安全、暮らし、豊かさ を 願った
統括者の 情熱と悲願 がうかがえる
静岡県公共事業は 交通基盤部という部署に託されており
ここで 数年以上にわたる綿密な計画、準備を経て 着手に至る。
そのためには 土地に生きる人々、産業、利害関係…あらゆる方向から 意見を募り 集約し 最大公約的落とし所を 探り 説明・理解を得る過程が 必ず 組み込まれる。
富士川かりがね橋 建設工事 は
県庁所在地 静岡市から 新幹線で東へ一駅 新富士駅から近い 富士市内
静岡県 富士土木事務所 が管轄
橋は 構造物 という”物“だけではなく
人の願いと希望と笑顔を請け負い
歴史の中で時を紡いで
生きる
この事業に関わった男たちは 全国から集まる。
一つのプロジェクトが終われば 次の現場に散る。
しかし
時に 自らが携わった橋に ふと 立ち寄る
頑張っているかい?
役に立っているかい?
そう そっと 語りかけてみたりする…
明治時代以降、全国で 鉄道整備が開始
モータリゼーションの進展により 富士川でも 橋建設が相次ぐ
1888年(明治22年) 富士川鉄橋 (東海道鉄道)
1924年(大正13年) 富士川橋 (旧 国道1号)
1964年(昭和39年) 富士川橋梁 (新幹線)
1968年(昭和43年) 富士川橋 (東名高速)
1971年(昭和46年) 新富士川橋 (国道1号BP)
2012年(平成24年) 富士川橋 (新東名高速)
2023年(令和5年) 富士川かりがね橋 (富士由比線)
※ 江戸時代 富士川に橋はなく 富士川をわたる際には 船を繋げて浮橋を整備した模様。(記録: 1682年 朝鮮通信使の渡河画)
開通すると 景色は変わり
これから 幾年…
ここで 人々に溶け込みながら
貢献する橋 となる
工事は 季節ごとに顔を変える 富士川の降水量を うかがい探る。
すなわち 渇水期 に行われる。
限られた期間*内での 効率的作業進行を目し
クレーンベント工法 という 架設方法が取られる。
* (静岡県における)出水期…6〜10月、渇水期…11〜5月
ブームの長さ 約40m・650t級 大型クレーン3台を同時使用
ベント(借受け台/柱)で橋桁を支えながら クレーンで架設
スピードを重視した 集中工事を 展開する
さて では 詳しく かりがね橋完成までの 工程を 辿ってみよう。
下図は 簡略な 桁橋(橋の構成)
もう少し詳細に図示
着工後 工事は 複層的に 全国複数箇所に 分割分散され 富士川の渇水期を念頭に 時期を重ね合わせ 複数年をまたぐ 大規模総合的な計画にて 展開される。
大きくは
①いわゆる 橋を組み立てる 上部工、
②橋を支える基礎部分 下行部、
③富士川域内にて それらの組み立て作業場所を確保する 埋め立て
の 3部構成に分けられる。
①上部工
かりがね橋の上部工構造は 鋼7径間連続鋼床版箱桁橋
大きな箱の上に載っている鉄板の上を車が走るイメージ
上部工 を請け負うのは
高田機工(株)、
JFEエンジニアリング(株)津製作所、
(株)横河ブリッジ 大阪工場
鉄板を特殊な機械で 必要な形に切り出し
部材を組み立て しっかり溶接
実際に 工場で橋桁を仮組、 間違いがないか の確認作業
その後 取り外し 塗装
500個以上の完成パーツを順次 トレーラーやトラックで ヤード*に運搬
*ヤード: 橋桁のパーツを組み立てたり、クレーンなどの機械を設置するスペース
橋桁の組立・架設
②下部工
4/6橋脚は ニューマチックケーソン*基礎を採用
ニューマチックケーソン工法: 空気の圧力で水の浸入を防ぐ原理の応用
Ex)コップを逆さまにして 平らに 水中に押し込むと 水は浸入しない
ケーソン下部に気密作業室を設け 圧縮空気を送り込み 地下水の浸入を防ぎ ドライな状態で掘削
③埋め立て
大型土のうで 富士川の一部を囲い 工事用機械を設置するヤードを作り 工事作業用の足場を確保
工夫:
①ヤードを確保後は 川幅が狭まるため 橋脚間の陸地を掘って 流路を調整
②ヤード使用の工事は渇水期のみ。出水期には 川の流れを阻害し 危険となるため 出水期前に 壊し 元の状態に戻す
橋と共に 川が 人々と生きる
自然の中で生きる 時代の考えを示す
日本の新しい添い方が 試される
次の橋が 待っている
当作品は 静岡県交通基盤部 政策管理局 建設政策課 及び 静岡県富士土木事務所の関係者の皆様の多大なるご協力のもと 制作されました。
改めて ここに 御礼申し上げます。
(記:前澤 祐貴子)
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