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老成学研究所 > 時代への提言 > 「浜松防潮堤」 シリーズ > 【浜松防潮堤シリーズ】(6) 環境シリーズ: その1 環境を愛しむ
はじめに
老成学研究所における本シリーズは、”浜松防潮堤”という「現代の奇跡」のような構造物の認知普及を当研究所ホームページを通して更に拡げさせていただきますことで、そこに込められた叡智・想いを伝承させていただくことにあります.
当シリーズにてご紹介させていただいております情報源は、正確を期するために、そのデータ、資料、写真/画像は2021年3月発刊の『浜松市沿岸域防潮堤(通称 一条堤)竣工記念誌』より抜粋・引用・転載させていただいております。(概要版は浜松土木事務所で入手可能)
浜松防潮堤シリーズ
(6)
(『浜松市沿岸域防潮堤(通称 一条堤)竣工記念誌』P. 51)
環境シリーズ
その1
浜松防潮堤
環境を愛おしむ
誰が決めたのだろう
いつの間に決めたのだろう
環境…保護…
人が壊したから
せめて
寄り添い
傷を癒させていただく
広義の環境とは 「人・生物を取り巻く過程・社会・自然などの外的なことの総体」を指す
(「人間を中心とする生物・生態系を取り巻くもの」という意味での環境は狭義)
等しく生きる仲間として
そんな共生を せめて させていただきたい
(『浜松市沿岸域防潮堤(通称 一条堤)竣工記念誌』P. 48)
浜松防潮堤工事に伴う環境保全
そもそも 浜松防潮堤は、法的環境アセスメント対象外である。
(浜松市沿岸域防潮堤(通称 一条堤)竣工記念誌 概要版 P.38)
(『浜松市沿岸域防潮堤(通称 一条堤)竣工記念誌』P. 51)
しかしながら
世界に誇る環境保全体制を
建造物工事前の計画段階、工事中、工事後も敷いた
『建造物と環境の共生、共存』に示唆を与えるモデルケースを
提示しえた
といえよう。
©︎Y.Maezawa
浜松市沿岸部では 天竜川を起源とする沿岸漂砂が波浪及び風の作用により移動する 動的な地形形成 が繰り返されてきた。
豊富な沿岸漂砂は 沿岸流と風の作用により 砂丘と 背後地には 湿地を形成。
さらに 年月を経ると「その前面に さらなる砂丘と後背湿地を形成し、そもそもの砂丘は草地化、後背湿地は陸地化する」という『遷移』を繰り返すようになった。
このような『遷移』の過程で『撹乱』が発生する。洪水の氾濫、越波、風による砂丘の移動…など、局在的に改変が生じ、結果的に 多様な遷移状態を持つ状態(シフティングモザイク)が形成される…
( 『浜松市沿岸域防潮堤(通称 一条堤)竣工記念誌』 P.584 参考)
大海原 太平洋に臨む 浜松沿岸部とはそういう地域である。
この環境下、浜松防潮堤工事にあたり、当該対象区域が広範囲に及ぶため この自然環境に大きな影響が及ばないよう、環境調査やモニタリング調査を行い 環境保全活動を実施する…としたのだが…
(浜松市沿岸域防潮堤(通称 一条堤)竣工記念誌 概要版 P.38)
この環境保全活動が 半端なかった!
静岡県と浜松市が実施する浜松防潮堤(浜松市沿岸域防潮堤)整備事業は、元来想定される津波から浜松市民の生命・財産を守るためのものであり、速やかに事業を進め、市民の「安全・安心」を高めることが望まれていた。
一方、浜松防潮堤設置予定地域には多くの重要な動植物種が確認されており、その地域固有の自然環境が存在していた。
このため
浜松防潮堤事業では
自然環境の保全・復元が必要不可欠とし、
自然環境に大きな影響が及ぶことのないよう、
類稀なる環境調査及びモニタリング調査を実施した。
(浜松市沿岸域防潮堤(通称 一条堤)竣工記念誌 P.582 参考)
(『浜松市沿岸域防潮堤(通称 一条堤)竣工記念誌』P. 46)
費やした時間、労力、汗、話し合い…は数年単位規模、
そこにかける 知恵、想い、願い、努力は…
環境保全活動における世界的モデルケースを作り上げた
と言えよう。
その任に当たったのは2013年(平成25年)9月に正式に設置された「浜松市沿岸域防潮堤整備に係る自然環境検討委員会」である。環境保全対策について検討・助言をすることを目的とした。
専門的知識を要するもの、長期的議論の必要なものについては委員会内にワーキンググループを設置。案件によるが 工期中 通算15回開催された。
県による着工前の現地調査は 2012〜2013年(平成24〜25年)内 4期 11回、浜松防潮堤海岸保全区域(砂浜)と砂浜背後の海岸防災林区域 17.5km範囲を対象とした。
当該地域は 静岡県御前崎から愛知県伊良子岬に至る遠州灘沿岸の一部であるため 海岸には天竜川からの供給土砂により形成された砂浜(中田島砂丘は代表格)が、砂浜背後には沿岸域住民が防砂・防風対策で築き上げてきた黒松を主体にした人工海岸防災林が拡がる。
この恵まれた環境では 様々な動植物が生息・生育するのは当然であり、哺乳類4科5種、鳥類34科82種、爬虫類3科4種、両生類2科5種、昆虫類33科84種、植物88科283種が確認される。
* 絶滅危惧種、準絶滅危惧種を含む。
(浜松市沿岸域防潮堤(通称 一条堤)竣工記念誌 P.579, 581 参考)
©︎Y.Maezawa©︎
「浜松市沿岸域防潮堤整備に係る自然環境検討委員会」が繰り出す対策の基軸は
浜松防潮堤事業が 安心・安全な地域を後世に引き継ぐのと同じく
それに伴う自然環境も 浜松市沿岸域がもたらす豊かな自然と懐かしい景観を「ふるさとの原風景」として後世に引き継ぐべきものである
という認識に立つ。
(浜松市沿岸域防潮堤(通称 一条堤)竣工記念誌 概要版 P.38)
浜松防潮堤整備による生物多様性ホットスポットへの影響軽減対策だけでなく、
喪われた自然環境の復元・再生に繋がる対策
を検討した。
(浜松市沿岸域防潮堤(通称 一条堤)竣工記念誌 P.584 参考)
(『浜松市沿岸域防潮堤(通称 一条堤)竣工記念誌』P. 16)
自然環境検討委員会は2014年(平成25年)中間報告を取りまとめる。
その芯は 自然環境対策を実施するために
浜松防潮堤工事による影響を回避もしくは低減する方向性
の提言にあった。
生息する貴重な動植物の保全には必要不可欠であり、
それでこそ 多様な自然環境が維持できる、と。
(浜松市沿岸域防潮堤(通称 一条堤)竣工記念誌 P.633 参考)
©︎Y.Maezawa
浜松防潮堤には 様々な分析・評価の仕方があるが 大きく以下の特徴を有す。
1)民間出資
2)短期工期
3)新工法
4)民間協力体制の展開
5)環境重視対策
今号以降 5)に類別される環境重視対策について 以下の項目*ごとに内容を区分し、6話に分けて ご紹介させていただく。
浜松防潮堤の目的は 「未来に繋ぐ…津波で未来を生きる人々の命を失わさせない」という「未来を見据えたもの」である。が故に その計画段階から 「生き延びる」というテーマが主軸である。
その「生き延びる」というテーマにおいて 「環境のなかでの人間のありかた」や「自然の仲間たちと人間社会とのより良い共生関係」という発想にも視野は拡げられ、想いを込めて模索・反映された環境ケースモデルが仕上がった。
浜松防潮堤における環境への取り組みは
「後世の範」ともなる
価値ある現代の環境保全活動の指標
である。
本シリーズで しっかりとその思考と実践の経路を辿っていきたい。
(浜松市沿岸域防潮堤(通称 一条堤)竣工記念誌 概要版 P.36)
*内容別項目
浜松防潮堤17.5km内には局在的に多様な生物のホットスポットがある。
(浜松市沿岸域防潮堤(通称 一条堤)竣工記念誌 概要版 P.38)
① カワラハンミョウ その2
② 海岸湿地 その3
③ オオタカ その4
④ アオウミガメ その5
* 今号 「その1:浜松防潮堤 環境を愛おしむ」 と 「その6:浜松防潮堤 環境と共に」は上記①〜④前後に振り分けられます。
また 当浜松防潮堤事業はその完了後もPDCA**維持を目指し、連携団体(調査会社、近隣高等学校、民間企業、環境団体など)との関係を保ちながら 活動を継続している。
(浜松市沿岸域防潮堤(通称 一条堤)竣工記念誌 概要版 P.40 抜粋)
** 事象を捉え、目標を達成するための方法論として 現代 分野を超えて有用評定され実際多岐分野にわたり使用されている思考原型 PDCA(①) とその進化型 OODA(②)について 以下 大まかな説明を補足挿入する。
(以下、図表・内容はWikipediaより抜粋)
① PDCA:
Plan( 計画)、Do( 実行)、Check (評価)、Action (改善)、
このサイクルを繰り返し行うことで継続的な業務の改善を促す技法。
PDCAサイクルとは
PDCA最後のステップAction(改善)が終了したら、また最初のPlan(計画)に戻って循環させること
を意味します。
1950年代、品質管理研究の第一人者 ウィリアム・エドワーズ・デミング博士とウォルター・シューハート博士によって提唱された。
現在 品質管理の国際基準である ISO 9001 や ISO 14001 にもPDCA手法は取り入れられている。
② OODA:
Observe(観察)、Orient(情勢への適応)、Decide(意思決定)、Act(行動)。
このOODAループは 健全な意思決定を実現するドクトリンとされる。
官民を問わずあらゆる個人生活、人生ならびに組織経営において生起する競争・紛争等に生き残り、打ち勝ち、さらに反映させていく創造的行動哲学である、 と。
元々はアメリカ空軍 ジョン・ボイド大佐によって提唱され、航空戦に臨むパイロットの意思決定を対象としていた。
その後 作戦術・戦略レベル…更に ビジネスや政治など様々な分野に導入される。
コリン・グレイらにより あらゆる分野に適用できる一般論に至る。
③ PDCAサイクルとODDAループの差
それぞれのメソッドにはメリット/デメリットがあるが、総じてその違いは スピードと柔軟な発想力にあると言われている。
その成立背景からも類推できるようにODDAの方が現場での多様な対応には向いている。
☆「静岡県浜松土木事務所ホームページ」も是非ご参照くださいませ.
静岡県公式ホームページ: https://www.pref.shizuoka.jp
(文・写真・編集:前澤 祐貴子)
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浜松市沿岸域を大切に思われる貴会の想いが十二分に伝わるコメントをいただきました。有難うございました。今後、貴会のご主旨・ご活動を理解させていただき、 共に学ばせていただけたら、と考えます。
たまたま見かけたので、少しばかり真実を書かせていただきます。
恐らく3年位前からほぼ毎月新聞に掲載させていただいております。
千年に一度の津波に備え整備されてきた浜松市沿岸部防潮堤の施工中、実際に起きた事象、そしてウチの会での無償での対応、明らかな設計ミス計画ミスによる事象は増えており、今後も莫大な税金を投入しての行政の適当な対応はまだまだ続きます、昨日の朝日新聞でも大きく載りましたが、これまで3年間ウチの会で意見交換会を開催してきましたが、これからの対応についても行政と調整致しております。
浜松防潮堤における環境への取り組みは
「後世の範」ともなる
価値ある現代の環境保全活動の指標
とありましたが、環境の変化は修復不能なほどに今回の防潮堤整備はやり過ぎました。
また浜松市を守ってきた明善先生の言葉を無視した今回の無理な整備による事象は今後も増える事は必至。
その事象に対応すべく活動は当会で3年前から始めていますがまだまだ時間がかかります。
防潮堤整備始まる前から防潮堤の崩壊が始まり現在に至る、そして委員の連中の無能さ、浜松市沿岸部防潮堤に関わった行政の技術力の低さはこれからの事象で負の遺産であったと思い知らされる。
しかし天竜川以東の防潮堤整備の配慮や謙虚さは技術力の高さとして、静岡県の財産になる。