交流の広場
老成学研究所 > 時代への提言 > 「浜松防潮堤」 シリーズ > 防潮堤 ⑵ 最後に何を守るのか
©︎Y.Maezawa
いわゆる『自然』の力の前に ”絶対”はない。
想定 もなければ 想定外も ない
自然は人類の”想定”自体が既に範疇外にあることを思い知らさせる歴史を繰り返し現代も突きつけている。
その中で人類が「最後に護り守るもの」があるとするならば、それは…人命、命に他ならないのではないだろうか。
つまり、いかにすれば絶対的な完全防災ができるか ではなく 減災効果により最低限人命だけは救う方法論は何か…という究極のボーダーラインが浮き彫りにされてきたように思える。
【浜松防潮堤】
(静岡県土木事務所沿岸整備課 出典)
さだまさし作詞・作曲 「防人の詩(さきもりのうた」は映画『二百三高地』の主題歌であり、万葉集 第16巻第3852番に基づいて作られた。(1980 07 10 リリース)
鯨魚取 海哉死為流 山哉死為流
海は死にますか。山は死にますか。死にます。
死許曽 海者潮干而 山者枯為礼
死ぬからこそ潮は引き、山は枯れるのです。
防人とは日本の飛鳥時代から平安時代、律令制度下で行われた制度であり、「万葉集」(奈良時代)には防人のために徴用された兵やその家族が詠んだ歌が100首以上収録されていることは周知のことである。その「防人」とは(当時)唐から九州沿岸を防衛するために当てられた。つまり防ぐ対象は他国、敵という名の人間、軍事的な制度であった。
翻って2020年春、現代…私たちは千年の計に拠る浜松防潮堤を手に入れた。
防潮堤… 私たちは何を防ぎ、何を守ろうとしているのだろうか?
©︎Y.Maezawa
浜松市が面する太平洋側全沿岸域(天竜川〜浜名湖)17.5kmに高さ13.0~15.0mの防潮堤を設置することは現時点にて想定されている南海トラフ巨大地震(地震発生から到達時間約15分、最大津波高15.0m予測)被害における想定死者数16000人以上*が0人になる見通し…という画期的な結果をもたらす方策と算出された。浸水、家屋倒壊**はある程度覚悟しながらも人命を脅かすレベルにまでは上げさせないーというボーダーラインである。
* 沿岸域の低平地1340haが2m以上の津波によって浸水した場合の算出。
** 浸水深が2mを超えると木造家屋は全壊となる割合が大幅に増加する。
(静岡県土木事務所沿岸整備課 出典)
『何としても命を守る』は防潮堤構想の主軸であり、その具体性は「L2津波*に対し避難計画が成立する程度まで減災させる』にある。
* 発生頻度は極めて低いが、発生すれば甚大な影響をもたらす、あらゆる可能性を考慮した最大クラスの地震・津波。
(静岡県浜松土木事務所沿岸整備課 出典)
津波の被害を少なくし、避難をする時間を稼ぐことを浜松防潮堤が可能にさせる。全てを防ぐのではなく、「必ず避難する」という前提を可能にする土壌作りを推進するという方向性だ。
これは一生に経験することがあるかどうかわからない地震/津波…、何百年、何千年に一度しか発生しない巨大地震/巨大津波…、それらに備えるために自然を敵視し、敵対するためではなく、日本という地震国に生まれ、育ち、太平洋という伸びやかなる大海原に直に臨み、海の恩恵を享受しながら幾代にもわたりそこで生業をたててきた海の民がその海や自然と共に生きていくための譲り合いであり、協調であり、ある種の仲間意識/友情であるかもしれない。
自然と共に…
自然を愛する…
とは
そういうことであり
そもそも自然の一部である人類も何かを変え、自然を受け入れる知恵を出さなければならないのかもしれない。
静岡県が東海地震説発表(1976年)以降、被害想定を公表(1978、1993、2001、2013年)し、それに基づく津波対策施設整備を推進してきた40年間の地震対策実績は防災先進県として日本一であり、世界に誇れるレベルだ。が、この知恵の成果が問われるのは本番というのが厳しい現実であり、阪神・淡路大震災(1995 01 17)、東日本大震災(2011 03 11)はあらゆるリスクの可能性には限界がないことを教えてくれた。
最大にして最高の防災の目標が 人命尊重 であることも改めて教えてくれた。
浜松防潮堤は2013〜2020年の7年間という急ピッチでの竣工であったが、その背景には『間に合わさせなければならない』という強い思いがあったことを忘れてはならない。
間に合わせた今、もう少し先の深い問題をも考える責務が求められているのかもしれない。
自然と人間の関係。否、自然の中の人間…自然にとって人間とは何者であるべきなのか…と。
* 詳細な資料は静岡県土木事務所沿岸整備課 HP 参照をお勧め致します。
https://www.pref.shizuoka.jp/kensetsu/ke-890/bouchoutei/
©︎Y.Maezawa
(文・編集:前澤 祐貴子)
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