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【寄稿E】(9) 日本が誇るウォシュレットは世界の常識? 遠藤幸英
時代への提言 | 2023.06.22

©︎Y.Maezawa

日本が誇る ウォシュレットは

世界の常識?

演劇研究家

遠藤幸英


シャワー式トイレの人気

わが家でも3年前から TOTO社が誇る 温水洗浄便器 (washletとはミニ・洗浄シャワーあるいはスプレー?) を愛用しています。今頃になって? 

世間の感覚からすれば、このトイレの有難さに気づくのが遅すぎたでしょうか。ネット情報では その普及率は2021年の時点で なんと80%を越えたらしい。

©︎Y.Maezawa

この洗浄装置の基本的なアイデアは ウィキペディアによると、古くから世界各地に広まっているそうです。

bidet shower—also known as a commode [handy] shower, toilet shower, bum shower, shatafa or bum gun—is a hand-held triggered nozzle that is placed near the toilet and delivers a spray of water used for anal cleansing and cleaning of the genitals after using the toilet for defecation and urination, popularized by Arab nations where the bidet shower is a common bathroom accessory.

The bidet shower is common in Middle East, South Asia, Southeast Asia, South America, etc., where water is considered essential for anal cleansing. This includes IndiaNepalPakistanEgyptIranIraqMaldivesBangladeshBrazil,   Saudi, United Arab EmiratesIndonesiaMalaysiaPhilippinesSri LankaThailandVietnamCambodiaSingapore, etc. In those countries it is commonly installed in Western-style (sitting) toilet installations. 

水の呪力は 人類が先史時代から現代に至るまで信仰する 超自然的なパワーであることは否定できません。

これは ウィキに添付されたサンプル写真ですが、日本製の装置とまるで違います。

Typical faucet installation

ちなみに Miki Agrawal(インド系カナダ人、人間生活のさまざまな面にはびこる不合理なタブーを排除した人間らしい生き方を提言し 商品化している)は 2023年初頭 自身のウェッブサイトで  ビデの起源をインドとイスラ圏諸国に求めています。

曰く、

“Rooted in Hindu and Islamic traditions, using water to clean oneself after going to the bathroom has been a common practice in the East, but has only recently caught on in the West.”

(https://medium.com/@mikiagrawal/the-bidet-is-back-but-for-many-south-asians-its-been-a-fixture-fdbea5dfa669)

起源論争は 論者の思い入れが表面化するようです。

「ビデ」で思い出すことがあります。

まだ日本でもウォシュレットが珍しがられた30年ほど昔、ヨーロッパへ行く途中(イスラム圏)のドバイ空港で乗換便を待つ間 トイレに。そこで驚いたのは蓋も便座もないトイレの側面に 50センチほどのホースのついた小型のシャワーがあったことです。小用を足しに入った私ですが、なんの装置?と思うことしきり。真っ白いタイルの床は広範囲に濡れていましたが、見たところ汚れていなかった。

それ以来 ウォシュレット便器を購入するまで この記憶も消滅同然でした。

ところが、自宅にウォシュレットを導入し、また最近 ヘルシンキとベルリンへ別日程で訪れる機会があって、海外のトイレ事情はどうなんだろう と気になってきました。

旅行に出る前 ネットでググると フィンランド在住の日本人が画像付きで自宅の事例を引き合いに出しています(「フィンランドのなるほど! トイレ事情 日本とは違ってちょっと面白い」)。日本人に馴染みの洗浄機とは違うが、ウィキに掲載されたものと基本的には同じ。

余談ながら この方は ネットで(フィンランド雑貨を扱う)Kiitos Shopを運営していますが、店名のkiitos(キイトス)は 「ありがとう」 の意味です。私には 「生糸」を連想させて 耳障りのいい言葉に思えます。

©︎Y.Maezawa

話を元にもどして、この2度の旅行中航空機内、中継地(アムステルダム、パリ、香港)、また 訪問先でも ウォシュレット便器の類は 一度も見かけませんでした。世界の常識は まだまだ先なのかな?

とはいえ 私の場合 旅費をケチった結果にすぎないだけかもしれません。

今や ますます世界の耳目を集めているウォシュレットです。日本のTOTO社の独創的な製品だ と思っていましたが、さにあらず。

確かにデジタル機能を十全に活かした便器は TOTO社が世界で初めて独自に開発したものです。しかし 元々のアイデアは アメリカ生まれです。

ケロッグ・コーンフレークの発明者として知られる一方で(優生思想の持ち主だと批判されることもある)医学者Dr. John Harvey Kellogg が 20世紀前半に考案した便器が ウォシュレットの原型ともいえそうです。Dr.ケロッグは 食物摂取(消化機能を促進する食物繊維の多いシリアルの考案)と排泄後の洗浄装置 というぐあいに 入口と出口のきめ細かいケアに貢献した人物でしょう。

ただし 実用化、商品化に不向きで 社会には受け入れられませんでした。その後1960年代になってアメリカ人起業家Arnold Cohenが(おそらく多少なりともケロッグのアイデアをヒントにしたのでしょうか)ウォシュレットの原型を発明、商品化しています。

が、残念ながら 費用や工事の問題がネックになって 商業的には失敗。

 (参考サイト: https://www.bidet.org/blogs/news/15605664-arnold-cohen-bidet-king-extraordinaire)

ところが それに着目したTOTO社が 1964年に そのパテントを正式に買い取り、高度に進化させたのです。

©︎Y.Maezawa


後付け(add-on/attachable)洗浄便座 

一つ興味深いのは アメリカで徐々に普及しているのは 便器全体を入れ替えるのではなくて 水による洗浄機能をもつ便座のみを後付けすることです。

 (Fresh Water Spray Non-Electric Bidet Toilet Attachment in White with Self Cleaning Nozzleなど 50米ドル未満から)

排泄後の洗浄を どう受け入れるか は別にして、低価格で購入できる利点があります。日本で多く見られるように 便器全体を交換するのは 水道配管の仕様などの理由で高くつくため 敬遠される傾向があるようです。

©︎Y.Maezawa

この種の後付け便座に関して 体験談動画がYou Tubeでいくつか見つかります。海外の皆さん ビクビクしながら試みているのがおかしい。いくつかサンプルにあげてみます。

男性二人が 積極派と消極派に分かれて 体験談を語る Men Try Using a Bidet for the First Time (uploaded by Men Try Videos)とか 女性二人組の We Tried A Bidet For The First Time  (uploaded by Ladies & Lattes)。どちらも2019年の動画です。

後者の場合 女性二人(ジェスとホリー)曰く、

“We tried a bidet for the first time! This toilet bidet was such a new experience for Jess, and even though Holly had tried one in the past, it wasn’t like this one! It’s so funny seeing our reactions to this way of cleaning!” 。

二人は 影の司会者から この装置に関して あれこれ質問をされますが、反応はかなり気恥ずかしそう。是非 自宅に取り付けたい とは思っていないのかも。

確かに 日本では急激に普及し、ネットで見る限り 来日外国人からは絶賛の声が上がっています。しかし 各国の世論という大きな枠で考えると まだまだ抵抗を感じているのではないでしょうか。

これは個人的な考えですが、アメリカ人は一般に排泄にはあっけらかんとしているものだと思っていたので、男性も女性も装置の便利さを認めながらも 躊躇していることには 少々驚きました。

©︎Y.Maezawa

他方、フランス系カナダ人女性の動画は 環境に負荷のかかるトイレットパーパーを使わない後付け便座(ただし日本製ではない)のメリットを積極的に訴えています。

(https://www.youtube.com/watch?v=MUHvkwQWS_Q)

洗浄便座のおかげで清潔度が大いに高まったことを考えると 以前の状態にはもう戻りたくない と強く感じるそうです。動画に対するコメを見るとフランス(フランス語圏)でも 排泄を話題にしにくいそうで、そういうタブーを乗り越えた と賞賛しています。

日曜大工程度で取付け可能な便座より もっと手軽な携帯用ビデ(portable bidet)なるもの も発売されています。(日本製もあり)

2019年のCMぽい動画(”I‘m excited about this portable bidet because toilet paper is fucking disgusting: Say goodbye to dingle berries once and for all. The $89 device – which appears to be about as long as a 500ml water bottle – charges via USB and houses a cartridge that you can fill with water from a tap.” https://thenextweb.com/news/im-excited-about-this-sonny-portable-bidet-because-toilet-paper-is-fucking-disgusting)をご覧ください。日本以外の国々の 水道管関連のインフラの実情を考慮した 有益な情報公開かもしれません。

話が少しそれますが、ヨーロッパ特有の形式のビデは 1600年代代に フランスで考案されたが、水道設備などない時代で 小さなタンクに貯めた水を ポンプで吸引・噴射するものだったとか。見かけが小型の馬(poney/pony)に似ていたところから ポネ(英語では「ポニー」)の愛称で親しまれました。

これは 要するに 幼児用のオマルに四本の脚がついたものだ とイメージできます。瞬く間にヨーロッパ中に広まり、上流階級の必需品になったそうです。かのマリー・アントワネットも死刑囚として幽閉されている期間も 愛用のビデの使用を許可されていたそうです。丸見えの獄舎で排泄?市民・平民は最上流階級の彼女にとって人間的感性のない虫ケラ同然だったので 男の看守の目は気にならなかったのでしょう。

ですが、1960年代になり 都市部では 生活に便利な洗濯機などをバスルームに置くために 便器とは別に据えられたビデは 嵩張る邪魔者として排除されたのです。

(https://www.thelocal.fr/20230217/why-are-the-french-falling-out-of-love-with-the-bidet)

あるフランスのT V局は ヨーロッパ圏で 自国だけがビデ文化を捨てたことを惜しむかのように イタリアではビデがウォシュレットと同様の役目を果たしている と報道しています。まるで イタリアの伝統保持の姿勢を羨んでいるかのようです。

(https://www.youtube.com/watch?v=CedTdvgNjwM)

しかし フランス由来の「ビデ」と TOTOのウォシュレットに代表される洗浄機能付き便器とは 洗浄効果の面からすると別物 と言うべきでしょう。後者の優位性は 現代人なら誰しも認めざるをえない。

©︎Y.Maezawa

このように TOTO発案の洗浄便器は 評判になりながらも アメリカだけでなく 海外ではもろ手をあげて歓迎されているわけではない事情について 中原電気商会がネットに 英文記事 Why Are Bidet Toilets Not Popular Outside of Japan? (2022.05.24) を掲載しています。

海外での普及を阻む要因として トイレに電源がない、(日本と違って海外のほとんどの国が)ミネラル分の多い硬水を使用するので 装置のモーターを痛める、高価である など 興味深い分析をしています。

ただし、中原電気商会は TOTO社などの製品の問題点を指摘した上で、災害による停電時でも使用可能な 水圧式洗浄便座 を推奨している ので 主流のウォシュレット製品批判は いささか手前味噌めいています。

とはいえ 国別のインフラなどの差異に関する文中の指摘は傾聴に値します。また 旅行時に役立つ 携帯ビデの効用も 無視できないでしょう。

ちなみに アメリカには 洗浄関連製品として 極めて過激な道具 shiney hiney(シャイニー・ハイニー) があることを教えられました。どうも一般化していないようです。人気コメディアンによるT Vショー (放映期間 2003-2022年)  The Ellen show  [Ellen DeGeneres’ new series exploring all the things you can do when you take a little time for yourself] では 世にある珍奇なもの として取り上げられ、You Tubeで見ると 司会者 エレン・ディジェネレスもドン引きしています。

日本で普及しているのは TOTO社 その他の(洗浄装置組込み・一体型)便器が大多数かと思ったら、そうでもなさそうです。わが国でも 一流メーカーが各種の後付け便座を販売していて (製品により評価はさまざまですが) 売れ行きがいいようです。

TOTO あるいは ウォシュレットは 日本に起源をもつ文化的アイコンとして 世界的に認知されているようです。近い将来 この装置が 世界を席巻する可能性が高い。

とはいえ その国、その土地の環境は それぞれ違います。現地の環境に合わせて 現在 多様なバリエーションが開発されている現状から推察すると(日本人に馴染みのある)一体型のウォシュレットに 必ずしも統一されていくとは限らないようにも思えます。

しかし それにしても TOTO社のアイデアは 世界を動かすインパクトをもつことに変わりはなく、日本人としては 誇らしい。


つぶやきのような後書き。

日本式洗浄装置は 現代生活に不可欠 とはいうものの、世界有数の地震国たる日本です。少量の水で機能するbidet showerとはいえ、災害などで水道が使えなくなったら QOLが急落した と感じてしまいそうで怖い。

(編集: 前澤 祐貴子)

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