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『いま、核融合は』シリーズ:「地上に 太陽を つくる 〜核融合発電〜」 その4 核融合科学研究所 前所長 竹入康彦 
時代への提言 | 2023.05.30

©︎核融合科学研究所

老成学研究所 連続講座

いま、核融合は

地上に 太陽を つくる 

~核融合発電~

その4

核融合発電のしくみ

自然科学研究機構(NINS) 核融合科学研究所(NIFS) 前所長 

プラズマ・核融合学会 現会長

竹入康彦

©︎核融合科学研究所

           

はじめに

恒星や太陽で生じている核融合を 地上で実現するためには 

高温の燃料プラズマを 重力に代わる方法で閉じ込め 

核融合燃焼を持続させる必要 がある。

最も研究開発が進んでいる 磁場閉じ込め方式 では 

トカマク型の ITER において

核融合燃焼によるエネルギー生成 が計画されている。

今回は

核融合燃焼が どのようにして 維持されるのか、

そして 

発生した核融合エネルギーを利用して どのように 発電するのか、

核融合発電のしくみ  について 解説する。

核融合燃焼 とは

そもそも 燃焼、燃える とは どのような現象だろうか。

マッチで紙に火を着けた時 マッチの炎が消えると 紙の火も消えてしまうような場合は 紙が燃えている とはいえないが、

マッチの炎が消えても 紙に着いた火が消えずにいるような場合には 紙が燃え続ける燃焼状態になった といえる。

燃焼状態では 紙が燃えていることによる自らの熱で 紙の新たな部分の温度が上がり 火が燃え広がる。

これにより 燃焼が維持 されている。

核融合燃料である 重水素(D) と 三重水素(T)プラズマ を 

粒子ビームや電磁波で 外部から加熱して 温度を1億度以上、密度を100兆個/cm3以上に上げると 

重水素と三重水素が 核融合反応を起こし 

高エネルギーヘリウム原子核(He) と 中性子(n) が発生 する。

  D + T  → He (エネルギー) + n (エネルギー)

この時 反応の元となる DとTの温度 1億度に相当するエネルギーを それぞれ 1 とすると 核融合反応により Heと中性子は それぞれ 約350倍、約1,400倍 と 非常に大きなエネルギーを持って生成され、 両者のエネルギーの割合は 概略  1:4 である。

ここで ヘリウム原子核はイオンなので 閉じ込め磁場により プラズマ中に拘束され、高エネルギーの粒子ビームとして プラズマを加熱し、核融合反応を生ずる温度や密度を維持する のに使われる。 

一方  中性子は電荷を有しないため 磁場に拘束されることなく プラズマから即座に飛び出し、 プラズマを取り囲むように 周囲に設置されたブランケットと呼ぶ機器で受け止められ そのエネルギーは発電に使われる。

(図1参照)

©︎竹入康彦
図1 核融合燃焼プラズマの模式図


重水素(D)と三重水素(T)のプラズマの温度を1億度以上、密度を100兆個/cm3以上に上げる、重水素と三重水素が核融合反応を起こし、高エネルギーのヘリウム原子核(He)イオンと中性子(n)が生成され、発生したエネルギーは、概略1:4の割合でそれぞれの粒子が有する。
イオンであるヘリウム原子核は、閉じ込め磁場により プラズマ中に拘束され、高エネルギー粒子として電子を通してイオンを加熱し、核融合反応を生ずるプラズマの温度や密度を維持する。


一方 中性子は電荷を有しないため、磁場に拘束されずにプラズマから即座に飛び出し、プラズマを取り囲むように設置されたブランケットと呼ぶ機器で受け止められ、そのエネルギーは発電に使われる。最初に核融合反応を起こす条件に到達するために、外部からの加熱入力が点火用のマッチとして必要であるが、自己加熱による持続燃焼が確立する(点火する)と外部からの加熱(マッチ)は必要なくなる。

このように マッチとして 加熱機器を用いて プラズマを 核融合燃焼条件まで外部から加熱し 核融合反応で生成された高エネルギー Heイオンにより 燃焼条件を維持することが可能な状態になれば 外部からの加熱がなくても 燃焼状態を持続させることができる。

これが 核融合燃焼 である。

この自己加熱による燃焼状態を実現するためには 燃料粒子の約350倍のエネルギーを持つ 核融合生成ヘリウムイオン が プラズマをしっかりと加熱できるよう このヘリウムイオンに対して 高い閉じ込め性能が必要である。

なお 核融合燃焼状態は、基本的には 燃料の供給と、プラズマを加熱してエネルギーの低下したHeの灰としての除去により 定常的に維持されるが、トカマク型方式では これらに加えて プラズマ中に 定常的に電流を保持するための電流駆動 が必要となる。


燃料の生成

核融合発電の燃料は 重水素 と 三重水素 である。

重水素は 水素の同位体で その存在比は0.015%と小さいが 海水の量を考えると 資源としては無尽蔵 と言ってよい。

一方 三重水素も 水素の同位体であるが 天然にはほとんど存在しない

では どのようにして 燃料である三重水素を供給する のだろうか。

DT核融合反応では He と 中性子 が生成されるが、 

この中性子を リチウム(Li)と反応させると He と 三重水素 ができる。

  Li + n → He + T

この反応を利用して 核融合発電プラントでは エネルギーを発生させながら 燃料である三重水素を生産し それを燃料として使用する。

©︎竹入康彦
図2 核融合反応によるエネルギー発生 と 燃料である三重水素 の生成反応
DT核融合発電では、エネルギーを発生させながら 燃料を生成する。

これにより 天然にはほとんど存在しない三重水素の利用が 可能となる。

なお、現在、リチウムは 陸上の鉱山から採られているが、海水中に 豊富に含まれており、また 海水中のリチウムを抽出する技術も確立していることから、燃料資源として リチウムに大きな問題はない。


核融合発電のしくみ

さて これまで述べてきたことを纏めて 核融合発電のしくみ をみてみよう。

(図3参照)

©︎竹入康彦
図3 核融合発電プラントの模式図
図中 トリチウムと表記されているのは三重水素を指す。

プラズマ中の核融合反応により発生した ヘリウム により 核融合燃焼が維持され、同じく 核融合反応により発生した 中性子 は プラズマから飛び出てきて プラズマを取り囲むブランケットに受け止められる。

ブランケットには リチウムを含む冷却材を循環させ 中性子の運動エネルギーを熱エネルギーに変換して炉外に取り出し 熱交換機により蒸気を発生させて蒸気タービンを回して発電する。

ここで 中性子のエネルギーを熱として取り出した後の発電するしくみは 火力発電等と同じである。

 一方 ブランケット内では 冷却材に含まれているリチウム と 中性子 が反応して ヘリウム と 三重水素(トリチウム) が生成される。

三重水素は 冷却材の循環ループに設置された分離精製装置により分離して 燃料注入装置に送り 重水素と共に 燃料としてプラズマに供給する。

従って 核融合発電に必要な 

外部から供給される原料は 重水素 と リチウム 

であり、 

外部へ排出するのは ヘリウムガス のみ 

である。

 以上が 核融合発電のしくみ である。

核融合エネルギーの 取り出しから発電に至るまでのシステムには 材料開発を含めた要素技術をはじめとして ブランケット、リチウムを含む冷却材の循環ループ等の機器開発など 解決しなければならない課題が多く残されている。

ITERでは 核融合燃焼によるエネルギー発生を実証するが その結果を基に 実用化に向けた最終段階として 原型炉により核融合発電を実証することが計画されている。

それにより 核融合エネルギーによる電力を 一般家庭や工場、オフィス等へ供給する商用利用が可能となる。


アドバンスト(先進)核融合

ここでは 最も核融合反応を起こし易い DT反応を利用した 核融合発電のしくみについて説明したが プラズマから飛び出す核融合生成中性子の運動エネルギーを 熱エネルギーに変換し 蒸気タービンを回して発電するので 発電効率は40%程度に制限される。

一方 核融合反応には 反応生成物がイオン(原子核)のみの反応もある。

代表的なものに 重水素 と 質量数3のヘリウム との D-3He反応 があり 質量数4の通常のヘリウムと陽子(p)(プロトン、水素原子核) が生成される。

D + 3He → 4He + p

核融合で発生したエネルギーは 共にイオンであるヘリウムと陽子が有しているため プラズマ中に保持され タービンなどを介さない直接発電である電磁流体(MHD)発電 が可能となる。

MHD発電の実現には 研究開発が必要であるが 発電効率は60%以上になること が期待される。

D-3He核融合は 核融合エネルギーがプラズマ中の荷電粒子から取り出せることから アドバンスト(先進)核融合 と呼ばれているが、 D-T核融合より10倍ほどの高温度・高密度が必要なこと、3Heは月には豊富にあるが地球上にはほとんど存在しないことなどから 将来 人類が月で活動するようになった時のエネルギー源 として考えられている。


また D-3He核融合は D-D反応や その結果として わずかではあるが D-T反応を生ずるので 中性子の発生を伴う。

そこで 中性子が発生しない プロトン(p)-ボロン(11B)核融合 (軽水素ホウ素反応) が提案されている。

p + 11B → 3 He

エネルギーがプラズマ中の荷電粒子から取り出せるアドバンスト核融合を利用すると プラズマ噴射による推進力 と プラズマによる直接発電 が同時に得られることから 遠い未来における深宇宙有人探査用ロケットとなり得る。

推進力が大きく(大推力)、高速飛行が可能で(高比推力)、発電ができる核融合ロケットは 銀河旅行のできる深宇宙有人探査用ロケットの唯一の解 である。


おわりに

 核融合 というと ギラギラと燃える太陽 と結び付けられ また 1億度を超える超高温度が話題として挙がることから 高温のプラズマそのものを熱源として発電が行われるのではないか という印象を持たれていたかもしれない。

ここでは 核融合燃焼を マッチ(加熱装置)による紙(プラズマ)の点火燃焼に例えて 発電のしくみを説明したが ご理解いただけただろうか。

また 核融合エネルギーが プラズマ中の荷電粒子から取り出せるアドバンスト核融合についても紹介し 現状 技術的な目途は立っていないが 遠い未来に向けた夢のある話として 核融合ロケットにまで言及した。

楽しんでいただけただろうか。

講座としての「地上に 太陽を つくる ~核融合発電~」は 一応 これで終了とするが 機会があれば、こぼれ話(余談)を適宜掲載する予定 である。

(編集:前澤 祐貴子)

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