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老成学研究所 > 時代への提言 > 『いま、核融合は』:「地上に太陽をつくる:核融合発電」シリーズ > 『いま、核融合は』シリーズ: 「地上に 太陽を つくる 〜核融合発電〜」その3 核融合科学研究所 前所長 竹入康彦
連続講座
『いま、核融合は』
地上に 太陽を つくる
~核融合発電~
〜その3〜
プラズマを
閉じ込める、
加熱する
自然科学研究機構(NINS) 核融合科学研究所(NIFS) 前所長
プラズマ・核融合学会 現会長
竹入康彦
【はじめに】
前回は、核融合の原理について紹介し、
恒星や太陽は 核融合反応により燃え、エネルギーを生成していること を説明した。
恒星や太陽は 自らの巨大な重力で
燃料粒子を閉じ込めることにより 核融合燃焼を維持しているが、
地上では この重力を利用することは不可能である。
それでは、宇宙のエネルギーである核融合を 地上で実現するためには、
重力に替わるどのような方法で 燃料粒子を閉じ込めれば よいのだろうか。
第4の状態プラズマ
恒星や太陽は 数千万度から数億度の熱核融合により燃えているが、このような高温では 物質はどのような状態になっているのだろうか。
多くの物質は 温度の低い時は固体であり、原子同士が束縛された状態となっている。
固体に熱(エネルギー)を加えて温度を上げると 液体となり、原子同士の束縛は部分的になくなる など 緩い状態となる。
液体に熱を加えて さらに温度を上げると 気体となり、原子 または 分子同士は 束縛のない自由に飛び交う状態 となる。
ここまでは 物質の3態として知られているが、
それでは 気体に熱を加えて さらに温度を上げると どうなるのだろうか。
すると 原子核(イオン)と電子で構成している原子から電子が離れて(電離して)
原子核(イオン)と電子が バラバラになって飛び回る状態 となる。
これが 物質の第4の状態 といわれる プラズマ状態 である(図1参照)。
プラズマは 電離気体 ともいうが、温度の高い状態 即ち エネルギーの高い状態であり、
物質は 数万度以上で 通常は プラズマ状態 となっている。
そのため、核融合燃焼は 燃料粒子がプラズマ状態で生じており、
その超高温のプラズマを如何にして閉じ込めるか が
地上の核融合の実現へ向けた 中心的な課題である。
プラズマは 身近なところでは 蛍光灯の内部の状態 として 観察することができる。
また、太陽は プラズマであり、極域地方で見られるオーロラや雷の稲妻も プラズマである。ロウソクの炎も 薄いプラズマ状態である。
図2に これら プラズマの温度と密度 を示す。
低温度から高温度、低密度から高密度と 非常に幅広い範囲で プラズマ状態が観測されること がわかる。
プラズマを閉じ込める
さて、超高温のプラズマを 地上で どのようにして閉じ込めるのか、
また、プラズマを保持する容器 は存在するのだろうか。
ここで 代表的なプラズマである 蛍光灯 を考えてみよう。
蛍光灯の管内には 大気圧の1,000分の4程度のアルゴンガスが 封じ込められており、スイッチを入れると 電気エネルギーが供給されて ガスが加熱され、プラズマ状態となって 蛍光灯は点灯する。この時の プラズマの温度は 1万度程度 と高いのであるが、蛍光管が溶けることはない。
これは プラズマの密度が 大気圧の1,000分の4程度 と希薄なため、温度と密度の積で表されるプラズマが有するエネルギーが、蛍光管の熱容量に比べて 十分に小さいことによる。
このことは 別の見方をすると、プラズマは 連続的に電気エネルギーを得ながらも管壁で冷やされるため、1万度程度にしか 温度が上がらない、と言うこともできる。
壁に触らないように プラズマを空中に保持することができれば、プラズマから壁への熱(エネルギー)の損失が抑えられ、1万度を超えて、数百万度、数千万度、数億度を 実現できるのではないか、と考えられる。
太陽は 自らの巨大な重力により プラズマを宇宙空間に保持して 高温プラズマを閉じ込めているが、地上では 重力以外の方法で、プラズマを 壁に触らないように空中に保持して閉じ込めること が必要である。
それには 2つの方法が考えられる。
1つはプラズマの 慣性閉じ込め である。
球形の殻に燃料を封入した燃料球に、四方八方の外部から 大きなエネルギーのレーザーや粒子ビームを均等に照射して 表面部をプラズマ化させ、それが外側へ噴出するエネルギーを レーザー等で抑えることにより、その反作用で 内部を圧縮し 高密度プラズマ状態にする。
これを 爆縮 と呼ぶが、この状態で プラズマが膨張してしまうまでの間に、即ち 慣性により静止している間に、核融合燃焼を完了させる方式が 慣性閉じ込め である。
この際、爆縮する中心部の高温高密度プラズマは、外部からのレーザー等の圧力により 空中に保持されている。
慣性閉じ込め方式は、ドライバー と呼ばれる燃料球に照射する レーザー等の大強度化や高効率化が 大きな課題である。
もう1つは、磁場による プラズマの閉じ込め である。
プラズマは 正または負の電荷を帯びた荷電粒子 で構成されている。
荷電粒子は 磁石のN極とS極を結ぶ線(磁力線)に巻付く性質 があるため、
磁力線に 平行方向には 自由に動くことができるが、
垂直方向の運動は 束縛を受ける(図3参照)。
そこで、磁力線の形状を工夫して 磁力線の いわば カゴを作り、そこにプラズマを保持することができれば、プラズマを空中に浮かした状態で閉じ込めることができる。
このように 磁場を用いて 高温プラズマを閉じ込めるのが 磁場閉じ込め方式である。
磁場閉じ込め方式は、核融合研究が 世界で開始された当初の1950年代後半より 精力的に研究が進められており、核融合発電の実現に最も近い方式 と考えられている。
そのため 以降では、この磁場閉じ込め方式による核融合研究について 述べることとする。
さて、それでは どのような磁力線のカゴを作れば よいのだろうか。
プラズマを構成するイオンや電子は、磁力線に垂直方向の運動は束縛を受けるが、平行方向には自由に動くため、磁力線を束にして、端がないようにドーナツ状(トーラスという)につなげれば、プラズマを壁から離して浮かすことができるかもしれない。
しかし 実際には、磁力線をドーナツ状(トーラス)にするだけでは プラズマを閉じ込めることはできない。
磁力線をドーナツ状に曲げることにより、トーラス断面の内側と外側の磁場強度が不均一になり、正の電荷を持つイオンと負の電荷を持つ電子が 上下に分離して電場が発生してしまう。
そして、その電場と磁場の相互作用により、プラズマ粒子をトーラス外側へ逃がす力が発生するため、プラズマを閉じ込めることができない。
そこで 磁力線を トーラスに沿ってひねると、トーラスの上下に分離したイオンと電子は ひねられた磁力線に沿って上下に動けるようになるため、正負の電荷が中和されて 電場の発生が抑えられる。
その結果、粒子の損失を引き起こす力は発生しなくなり、プラズマを閉じ込めることができる。
このように、環状(トーラス)の磁場閉じ込め方式では、トーラスに沿って 磁力線にひねりを与えることが プラズマ閉じ込めの本質となる。
このトーラスに沿った磁力線のひねりを 回転変換という。
磁力線にひねりがあると、磁力線は トーラスに沿って周回する間に トーラスの円周方向にも回るので、2次元的な面を構成することができる。
これが 磁気面で、磁場閉じ込め方式では、この磁気面を 層状(入れ子状)に重ね合わせることにより プラズマを 閉じ込めている。(図4参照)
磁力線が周回することにより形成される磁気面上では イオンや電子は自由に動き回ることができるので、磁気面上で温度や密度は一定となる。
そのため、温度や密度といったプラズマパラメータは 磁気面の関数となり、磁気面座標に対する温度等の分布を得ることができる。
そして、磁気面を横切る熱や粒子の移動を抑えることにより、高い温度や密度が得られるので、磁気面の断熱性能が プラズマの閉じ込め性能に対応していることがわかる。
ちなみに、トーラスの太さが半径1m程度とすると、1億度の中心温度を実現するためには、平均して1cm当たり100万度の断熱性能が必要である。
磁場閉じ込め核融合プラズマ装置-ヘリカル方式とトカマク方式
実際の環状型の磁場閉じ込め核融合装置では、この磁力線のひねり、即ち 回転変換を与える方法に 大きく分けて2つの方式がある。
1つは コイルをねじることで 回転変換を与えて 磁気面を形成する ヘリカル方式、
もう1つは プラズマ中に トーラスに沿った方向の電流を流すことにより
磁力線にひねりを加えて 磁気面を形成する トカマク方式である。
(第5図上図参照)
ヘリカル方式は 外部コイルのみにより 磁気面を形成するので、定常運転に適しているのに対して、
トカマク方式では 定常的に磁気面を形成するためには、プラズマ中に流す電流を維持する必要がある。
プラズマ電流は 変圧器の原理を利用して流す。
(図5下図参照)
1次巻線に相当するコイルを用いて、2次巻線に相当するドーナツ状のトーラスプラズマに誘導電流を流すが、この誘導電流は 一方向に流し続けることはできない。
このため、トカマク方式では、定常運転を目指した非誘導方式によるプラズマ電流の維持 が重要な課題となっている。
トカマク方式は 短時間運転に限られるものの、既に 核融合条件を満たす高性能プラズマを実現しており、燃料ガスに 重水素と三重水素を用いて 核融合燃焼を実証・制御することを目指す ITERの方式に採用されている。
しかし、定常運転に必須の プラズマ電流の定常維持は数100秒程度でしか実現できておらず、課題として残されている。
一方、ヘリカル方式は 原理的に定常運転が可能であり、2,300万度のプラズマを48分間定常に維持するなど、その定常運転性能を実証しているが、核融合燃焼を見込めるプラズマの高性能化が課題である。
LHDの重水素実験により、1億度を超えるプラズマを達成したが、さらなるプラズマ閉じ込め性能の向上が求められる。
プラズマを加熱する
ここまでは、高温・高密度のプラズマを 如何にして閉じ込めるのか、について述べてきたが、プラズマを実際に高温・高密度にするためには、外部からエネルギーを与えてプラズマを加熱する必要がある。
プラズマ閉じ込め性能が高いと 少ない加熱電力で高い温度・密度を得ることができるが、閉じ込め性能が低いと 大電力で加熱しても温度・密度はあまり上がらない。
なお、将来の核融合炉では 核融合燃焼しているため、外部から加熱する必要はないが、点火して燃焼状態にするまでは、外部からの加熱が必要である。
また、トカマク方式では 核融合燃焼状態でも プラズマ電流の維持に外部からの加熱入力を必要とする。
さて、プラズマの加熱方法には、電磁波による加熱 と 粒子ビームによる加熱 がある。
電子やイオンは、磁場強度と粒子の質量で決まる周波数で 磁力線のまわりを回っているので、それに同期した周波数の電磁波をプラズマに入射すると 磁力線のまわりを回っている粒子を加速することができる。これが 電磁波による加熱の原理である。
加速された粒子は 他の粒子と衝突を繰り返して熱化し、その結果、プラズマは加熱される。
閉じ込め磁場強度が 1~4Tに対して、
質量の小さい電子では 同期周波数として 50~200GHzのマイクロ波、
質量の大きいイオンは 同期周波数として 数10MHzの高周波の電磁波
が使われる。
核融合研究開発の進展に伴い、電子加熱用のマイクロ波発振管の大電力化・長パルス化の開発が進められ、ITERでは 単管出力1MW-1,000秒の140GHz発振管が使用される予定である。
イオン加熱用の高周波発振管には、放送電波用にすでに実用化されている大電力・定常発振管が使用されている。
粒子ビームによる加熱は、プラズマに 高速の粒子を入射し、ビーム粒子の持つ運動エネルギーを プラズマとの摩擦により 熱エネルギーに変換して プラズマを加熱する方法で、弾丸を標的に打ち込んだ際に標的の温度が上昇すること に例えることができる。
プラズマは 希薄なため、入射した高速粒子は プラズマ中を周回し、その間 プラズマ粒子との摩擦熱で プラズマの温度を上昇させる。
大型の核融合装置では、入射する高速粒子のエネルギーは 数100keV以上が必要とされ、ITERでは 1MeVとなり、現在、ビーム入射装置の開発が進められている。
なお、トカマク方式に必要な非誘導のプラズマ電流駆動にも これらの加熱装置が使用されるため、加熱装置は 大電力 かつ 定常運転 が求められる。
おわりに
地上の核融合を実現するために必要な プラズマ閉じ込めの方法 について述べ、磁場閉じ込め装置の特徴を ヘリカル方式 と トカマク方式 について説明した。また、プラズマ加熱についても 簡単に示した。
研究開発の進展により、ITERにおいて
核融合燃焼によるエネルギー生成を実証すること が計画されている。
ITERでのエネルギー生成の結果を受けて、
次は いよいよ
発電を実証する段階 となる。
そこで 次回は 「核融合発電の仕組み と その課題」 について述べる。
(編集: 前澤 祐貴子)
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