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老成学研究所 > 時代への提言 > 『令和のお屋根替え』シリーズ > 『令和のお屋根替え』シリーズ No.2 檜皮葺 (株)村上社寺工芸社
用 と 美
日本 という国、民、風土…
そこで培われた感性に磨きをかけ
先人たちは 植物性屋根 という芸術的技術を
伝統文化とし 継承してきた
『令和のお屋根替え』シリーズ
No.2
檜皮葺 (株)村上社寺工芸社
時代を引き継ぐ 者の 背中
時を越えさせる 背中
時を繋ぐ 背中
背中が見せる歴史
背中が導く道
背中が静かに語る使命
物言わぬ背中が誘う未来
危険と隣り合わせの高所現場
神経を行き届かせた 身体の型 と 動きの軌跡 は
無駄と隙がなく きまる
背中 と 伝統
背中が示す未来への道
Wordless Back Lesson
伝統 は 時の流れに 乗る
人から 人へ
確かに 伝え 繋がれ
遺され 息づく
檜皮葺(ひわだぶき:檜の皮で屋根を葺く技法)の技術は
建造物の屋根葺技術として
国外には例を見ない 日本特有の文化資産。
国の選定保存技術に指定されている。
1300年にわたって 継承される* 優美な造形美 と 日本の風土に適応した「用と美」の伝統技法 は 日本人の心を深く捉える日本独特の芸術作品。
* 檜皮葺の記録:
・668年(天智天皇7Nenn) 「扶桑略記(国史大系 第6巻)」近江国滋賀郡於崇福寺建
・室町時代 1500年末頃 「職人尽絵 七十一番職人歌合」には最古の檜皮職人が描かれている。
技術の発祥は 定かではないが 8世紀中頃には 既に用いられ 8世紀末には技法が定着。
飛鳥時代に広まり 奈良時代では上級建築に 平安時代には 最も格式の高い屋根工法として 神社建築に多く用いられる。
『雪は檜皮葺、いとめでたし。すこし消えがたになりたるほど…』
(枕草子)
〜白雪と檜皮の屋根が織りなす色の 絶妙なコントラストを風情豊かに表現〜
樹齢100年以上の檜を伐採することなく 皮だけを採取し 職人の手によって 仕上げられる*。30年以上 雨風から建造物を護る機能性と 繊細で美しい曲線美を兼ね備える。
* 参照:当HP内 『時代への提言」『令和のお屋根替え』シリーズ No.1 「原皮師 檜と生きる」
檜皮葺は 自然を活かし その恵みを活用*するため
世界にも その 自然との共生 を高く評価され
2020年(令和2年) ユネスコ無形文化遺産に登録される。
* 材そのものの 美しさを喜び 讃え、 清らかな状態に大切に保つ為にも 定期的な葺き替えは必須。周囲の杉や檜から種子が落ち 発芽した実生苗が屋根を侵食した箇所を修繕もする。
現在では 多数の檜皮葺の建造物*は重要文化財として保護されており その保護のためにも 檜皮葺の技術は 今後も 欠くことができない。
* 代表例: 清水寺(京都)、善光寺(長野)、厳島神社(広島) など。
国の重要文化財に指定されている建造物 4676棟(2014年/平成26年時点)のうち 檜皮葺は 824棟。
一般建築ではほとんど用いられなくなっていることから 技術伝承が困難になってきており 全国社寺等屋根工事技術保存会*が 技術者**の人数確保活動に精力的に取り組んでおり 近年 その効果で 問題は回復傾向に転じている。
* 全国社寺等屋根工事技術保存会: 京都市東山区に在する 公益社団法人。
参考: http://www.shajiyane-japan.org
日本の文化財保護事業寄与のため 1979年(昭和54年)設立。組織的な運営により 以下を目的とする。
①文化財である社寺等屋根工事の技術保存とその研究向上
②社寺屋根工事技術者、檜皮採取者 養成研修
③文化財修理用資材確保
** 専門職人 竹釘師によって 丹波地方を中心とした地域で採れる良質な竹から製造される。30〜40年毎に次の葺き替え時期がきても 竹釘には傷みは発生していない。
「荒取り、節の鉋削り、中割り、小割り、面取り、裁断(長さ3.6cm、径3mm), 天日乾燥、焙煎」という幾多の工程を経、檜皮葺では 平葺箇所で 2400〜3000本/坪(3.3㎡)必要。
株式会社 村上社寺工芸社 代表取締役
村上 英明
1955年(昭和30年)生
日本体育大学を卒業後 5年間 教員生活を送る
1980年(昭和55年) 25歳で 兵庫県丹波市に戻る
1915年(大正4年)創業 100余年の歴史を持つ(株)村上社寺工芸社*(兵庫県丹波市)代表取締役である父に師事
1998年(平成10年)43歳以降 代表取締役として 当事業を継承
2014年(平成26年)59歳、 公社 全国社寺等屋根工事技術保全会(京都市東山区)会長に就任
2020年(令和2年) 65歳 には 同会監事に就任
* 参照:株式会社 村上社寺工芸社
1915年(大正4年)創業。日本古来の技法で国の選定保存技術に指定されている檜皮葺・柿葺・茅葺の職人技術をもち 国内の国宝・重要文化財など 社寺仏閣の屋根を葺く。
※創業年に「遠江国一宮 小國神社 檜皮葺屋根の葺替え」を施工した記録が残る。
誰に対しても 物腰柔らかく 態度を変えない
人の痛みがわかる
苦労してきた…
自に固執するのではなく 全体を動かすための
自のあり方を 自ずと体現でき得る
人徳…というのか…
その背中を
たくさんの者の目が見つめ
ついてきた
信の綱
続く者への 静かな語りかけが
この男の背中には 紐付いている
三人の息子たちにも
背中…それしか 見せてこなかった
「伝統技術は 継承者の高齢化、担い手不足、原材料の激減など 厳しい状況が続いている」
(神社新報 令和3年11月29日 (1)抜粋: 文化庁担当者 言)
じっと
何も言わず
静かに 待った
己も 選んだ道を
再び 次の世に繋いでくれる後継者を
先祖代々継承してきた
長い歴史の付託を
任せられる 次の者を
待つ
ある日
息子の一人が 帰って来た
なんとなく 作業に加わる
さりげなく 身体を動かす
仲間が 添う
幼き頃から見てきた光景
身が 自然と馴染む
時が 呑み込む
息子は 特に何も言わない
当たり前のように 日常が回る
いつしか
次の季節が 始まる
次を引き受けた若い後継者が 自覚を持って その修行を始める
長い道が 始まる
村上 貢章
三人息子の次男
株式会社 村上社寺工芸社 専務取締役 を引き受ける
”お仕事”…では…ない
1300年 続く道を 歩き続ける 次の道者 となる
檜皮葺は 1300年の伝統と歴史を有する 日本古来の伝統産業
2018年 念願のユネスコ無形文化財 に指定
しかし 現状 残念ながら 日本国民でも 「多くの国宝級の寺社仏閣の屋根が 檜の皮で造られ それを可能にする古来からの伝統産業があること」を 改めて知る人は少ない。
本格的に 檜皮葺が登用されたのは 飛鳥時代(593〜709年)からではないかと思われる。
藤原京(飛鳥時代後半)は 日本で最初の条坊都市*故 その造営には 多量の木材を使用した多くの建物が建てられ その製造過程で多量に排出された 派生材としての檜皮 を有効活用し 上級建築に 檜皮葺を充てた と思われる。
* 条坊都市: 中国の都をならって 日本古代の都で施工された基盤目状の都市区画
奈良時代では 宮殿、貴族住宅、寺院に檜皮葺が多用。
平安時代には 檜皮葺は広く普及。*
平安時代の職人達が 美しい曲線を伴った優美な屋根を造る工夫を重ね
竹釘や細かい葺き方を編み出した と思われる。
鎌倉時代、現在の檜皮葺技法が ほぼ確立。
材料の産地化も進み 良質な檜皮を確保。
檜皮葺の技術を伝承するには 現場での体験しかない
* You Tubeにて (”村上社寺工芸社”)屋根葺き(模型)、檜皮整形が ご覧いただけます
4〜8月は 檜皮の成長期
9〜3月 原皮師(もとかわし)*が 檜皮を剥ぐ
その供給を受け 集まった檜皮をなめしていく
※ 参照:当HP内 同シリーズ No.1 「原皮師 檜と生きる」
*檜皮葺建造物保存に必須の日本古来からの技術 【檜皮採取】 を請け負う原皮師(もとかわし)は 木べら、振り縄(縄の両端に3cm径 40cm長 の”振り棒”を結びつけたもの)、腰なた などの道具を使用し 樹齢100年以上の立木の檜から 内樹皮傷つけることなく 外樹皮のみを剥ぎ取る。
採取時期は 檜の負担を考慮し 栄養・水分の流動が少ない おおよそ 7月下旬から翌年4月下旬(約9ヶ月)を充てる。
優れた檜皮の採取は 檜皮葺そのものの仕上がりや耐久性に大きく寄与する重要な技術である。
組み立て前の重要な作業だ。
本社は 兵庫県丹波
山 奥深い
ここ丹波の本社から 現場までの片道5〜6時間の車往復なぞは 当たり前
体も精神も鍛え抜かれて
日本国中を駆け巡る
檜皮整形(皮切り)には
洗皮工程(あらいかわ)
と
綴皮工程(つづりかわ)
の 2工程がある。
この檜皮整形(皮切り)は 原皮師が採取した原皮(もとかわ)を「当(あて)」という 檜または松で作った台 と 檜皮包丁を使用し 屋根葺用製品に仕立てる作業。兵庫県丹波の本社で行われる。
1)洗皮工程:
檜皮の原皮を所定の厚さに仕立てる工程
用途別に原皮を順次 平皮用、軒皮用、生皮用(なまかわ)、上目皮用(うわめかわ) などに選別。
①一定の厚みにへぐ
②表面のヤニ、節を除く
2)綴皮工程:
洗皮から平皮などの製品を作るために一定の長さ、木口幅にするため 檜皮を重ね 檜皮包丁の先でコツコツと叩いて 上下の皮を綴じ 一枚の形に仕上げる。
その他 軒積皮(のきつみかわ、留皮(とめかわ)、谷皮(たにかわ)、唐破風用面皮(からはふようつらかわ)、唐破風鏡皮(からはふかがみかわ)などに適するように拵える。
③檜皮を重ね 檜皮包丁でこずく
④檜皮の木口を切る
⑤2尺5寸の平皮用に 小把に結束
⑥4把1束に結束
この大事な下準備を経て ようやく 屋根を葺く工程
いわゆる 檜皮葺に取り掛かる。
檜皮葺は専門の 「葺師」が執り行う。
一枚一枚 丁寧に重ね葺いていくには 熟練された技があっても 手間がかかるが それだけに その仕上がりは 優美で 上品さが漂うものとなる。
①軒先の部分から始まり 野付皮を程よい厚さに積み上げ 手斧(チョンナ)切り仕上げを施す
②軒付の耐久性を高める為 水切銅板や上目皮を張る
③平皮を1.2cm(4分)ほどの間隔で 竹釘で止めながら 順次上の方向へ葺き重ねていく
※屋根の 『唐破風、谷、箕甲(みのこう)*」などと呼ばれる部分は雨水の滞留で傷みやすいので 特に入念に施工。
*破風板の反りと屋根の反りの違いを処理する部分
”平葺”完了後 棟に品軒を積み 箱棟を組み立てたり 瓦棟を積んで 屋根葺工程は完成する。
細かい作業工程を全て把握・手配し 人員を配置し 納期内にその復元を終えるには 全仕事工程を掌握していなければならない。
人生を賭し 歳月をかけて熟練していく職務内容だ。
通常 一つの現場に 工程・技術を全て把握したリーダーの職人が一人つく
彼の役割は大きく 責務は重い…
屋根の形は 解体前に 隅々まで そのデザインを頭に叩き込む。
当然ながら それぞれの寺社仏閣によって 形が異なる 特有の前の形を 間違いなく復元しなければならない
現場は 仕事柄 常に 高所
天候の影響は容赦無く
現場は 小さなミスが 致命的な事態を招く
年単位となる修復期間は ほぼ現地で生活
2週間に一度 遠方から 家族のもとに帰れる…か
現場は 歴史 という時間に生き続ける 国宝級の文化財 寺社仏閣
直に触れ 新たなる 次の数百年を跨げるものに復元
そこには 誇り と 使命 が ある
村上が待つのは 後継者だけではなかった
自らの背中が 今の時代に どう伝わっているかも 極めて重要だ
この次の時代を生きる者たちに
この伝統産業に興味を持ち 参画してもらいたい と願う
この道を絶やさない 共に歩く 仲間を求める
おやじは いつも 待つ
待って 待って 待ち続ける
きっと この質と価値を わかる日本人が
この日本にいるはずだ と…
自分も…長く 自身の父に待っていてもらった…
遠い過去の自分を思い出し 噛み締めながら…
今になって 親父が待ってくれた 静かで熱い気持ちが 手に取るようにわかる
おやじ の 待ち…
それは 親父の 単なる願い だけではなく
一族の誇り と 日本の歴史を背負う使命感 でもあった
大きな愛と 深い時間の重さに 包まれた 託し
おやじの姿は 唯一無二の型となり
おやじの顔は 歴史を受け継ぐ者として 格段に 深い味わいを蓄える
自らが 自らのうちに問うた 果たすべきものを呑み込み
己が己に己へのボーダーを課す。
それを 腹の底から理解した者は 逃げない。
その姿が 次を創成する旗となる。
この道は 長い
しの という道具がある
素人には 使いこなせない
古代から伝承された貴重な木造建造物の改修には その作業過程における傷つきを恐れ 足場を木材で組む。
現代では 安全上 ほぼ金属で組まれる足場が 古代木造建造物を痛めるリスクを避けるため 旧来通りの 木材で足場を組む折 使われる道具が しの だ。
木材と木材を 専用の太い鉄線(番線)で結う。
勿論 緩みやズレが発生してはならない。
縦と横、通し方、巻き方…単純に見えるが 結びは強固で 素早い組み立てを可能にする
当然だが 任された現場の足場全体に要される 全木材本数なども 現場リーダーが その構造や組み方を脳内で構築し (足場を組む前の準備段階で)割り出す。
全体を任されるまでには あらゆる工程に習熟する 相当の年季が要される。
過去 今 未来
3本の 時の流れが
合わさる
“日本の心” が 3本の時の流れを結束する ”しの” の役割を 果たす
誇るべき文化遺産を 皆で護り 後世に遺し 伝え託す
生き続ける文化となる
時が継承され 歴史が続く
【参考文献】
①「先人達の屋根技術 〜日本人の感性が生み出した伝統文化〜
公益社団法人 全国社寺等屋根工事技術保存会
②「玉垂 ”令和のお屋根替え”〜次世代へつなぐ 祈り・美〜」(たまだれ)No.61
小國神社社務所発行 2021年(令和3年)03 25
②−1『特集 祝ユネスコ無形文化遺産登録 「伝統建築工匠の技 檜皮採取・檜皮葺 〜古より伝わる日本唯一の伝統技術〜」』
②−2『特別寄稿文:株式会社 村上社寺工芸社 代表取締役 村上英明/檜皮葺「千年の技・千年の美」』
③『祝 令和二年十二月 ユネスコ無形文化遺産登録 伝統建築工匠の技 檜皮採取・檜皮葺 「天皇陛下御即位記念 令和のお屋根替え 次世代へつなぐ 祈り・技・美」』
発遠江国一宮 小國神社 発行 2020年(令和2年)12月
④「文化庁 文化財守る技術間近に 東京で初めてのフェア」
神社新報 2021年(令和3年)11 29付 1面
(記:前澤 祐貴子)
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