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『いま、核融合は』シリーズ :「地上に 太陽を つくる 〜核融合発電〜」 その1 核融合科学研究所 前所長 竹入康彦
交流の広場 | 2022.08.08

©︎Y.Maezawa


老成学研究所 連続講座

『いま、核融合は』

©︎核融合科学研究所

【地上に 太陽を つくる】 

~ 核融合発電 ~

(その1)

自然科学研究機構(NINS) 核融合科学研究所(NIFS) 前所長 

プラズマ・核融合学会 現会長

竹入康彦

©︎Y.Maezawa

核融合発電へ向けた

新たなインパクト

はじめに

核融合が夢のエネルギーあるいは究極のエネルギーといわれて久しいが、その実現は「いつまで経ってもあと30年」と揶揄され、一般の人の関心も薄れ、若い世代には核融合という言葉に対する認識すらない、というのが現実である。そうした状況が今、打破されようとしている。二酸化炭素増大による地球温暖化が人類が直面する地球規模の課題として認識され、現在、全世界的に脱炭素の取り組みが進められている。

我が国は、2050年までのカーボンニュートラル、即ち、脱炭素社会の実現を宣言し、その具体的な方策として、「クリーンエネルギー戦略」が掲げられた。その中で核融合への言及があり、新たなイノベーションとしての期待とともに、その実用化へ向けた戦略が議論されようとしている。再び核融合が注目されているが、「あと30年」では間に合わない。

本当に核融合発電は実現するのか、

そして、

地球温暖化を阻止する主役となり得るのか、

そのためには何が必要なのか。

この連続講座では、核融合発電の原理を紹介するとともに、そうした点について議論していく。

第1回は、核融合研究開発の現状について、新たな流れを含めて紹介する。


究極のエネルギー核融合

核融合エネルギーは、二酸化炭素を放出せず、燃料資源がほぼ無尽蔵で、安全性の確保されたエネルギー源として、その実用化が期待されている。

この究極のエネルギーである核融合では、水素の原子核がくっついて(融合して)より大きなヘリウムの原子核になる「核融合反応」により、エネルギーが生成される。これは太陽の内部で生じている反応で、地球を含めた太陽系のエネルギーをこれまで46億年にわたって生成し続けている。

オレンジの光

自動的に生成された説明
©NASA
太陽のX写真

太陽の中心では、核融合反応によりエネルギーを生成している。
46億年前から安定に燃焼し、あと50億年以上燃え続ける。

これを地上で実現できれば、人類は「無限」のエネルギーを手にすることができる。

太陽の中心部は核融合反応により燃焼しており、温度1,500万度、密度160g/cm3の超高温・高圧力の状態になっている。この状態をそのまま地上で実現することは不可能なので、地上の太陽では、燃料として水素の同位体である重水素と三重水素を用い、密度は1.7×10-10g/cm3と極めて小さいが、温度は1億度を超す超高温度を必要条件とする。この状態を実現することを目指して、1950年代後半から世界中で研究・開発が行われてきた。


核融合研究開発の進展 ~どこまで進んだのか~

核融合の研究開発は必ずしも順調ではなく、1億度を超える温度を実現するのに数多くの困難に遭遇した。それらを一つひとつ解決し、装置も大型化して、1980年代後半には 温度が1億度を超えるところまで研究が進展した。

グラフ, 散布図

自動的に生成された説明
核融合研究開発の進展:赤字と桃字は核融合実験装置の性能を、青字は半導体の集積度を示す。
核融合の研究開発は多くの困難に遭遇したが、半導体の集積度の向上におけるムーアの法則と同等のスピードで性能が向上した。

そこで、核融合燃焼を実際に起こし、エネルギーを発生させる核融合実験炉を国際協力で建設して運転を行う国際熱核融合実験炉(International Thermonuclear Experimental Reactor: ITER)計画が、1985年の米ソ首脳会談が発端となって提案され、設計活動、政府間協議を経て、2007年にITER協定が発効し、計画がスタートした。日本、欧州(EU)、アメリカ、ロシア、中国、韓国、インドの7つの国と地域による国際協力で、フランスのカダラッシュに建設されることとなった。

ITERは直径約30m、高さ約30mの大型装置であり、

燃料である重水素と三重水素を燃やして50万kWの熱出力を計画しているが発電までは行わない。

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©ITER機構
ITER(国際核融合実験炉)
7極(日、欧、米、露、中、韓、印)による国際事業で、核融合燃焼により50万キロワットの熱出力を目指す。
中央部のドーナツ状の空間で燃焼する。 

入力エネルギーの10倍以上の出力が得られる状態を400秒程度維持するとともに、次の段階の核融合発電に向けた核融合工学技術の実証を行うことを目標としている。

核融合燃焼を目指すITERは、国際協力における各国の状況等にも左右され、当初計画よりも建設が遅れているが、7割以上が完成し、2025年末の運転開始に向けて急ピッチで建設が進んでいる。そして、2035年には人類初の核融合燃焼を実証する計画である。

ITERで核融合燃焼が確認できれば、次はいよいよ核融合エネルギーによる発電の実証である。これを原型炉と呼ぶが、原型炉では発電した電気を送電系統に供給するので、核融合発電所の原型となる。

そのため、各国のエネルギー政策、核融合産業などと密接に関係してくるため、原型炉は各国がそれぞれ戦略性をもって建設することになる。ITERによる核融合燃焼の結果を踏まえて原型炉を建設し、今世紀中葉に発電を実証することを多くの国が想定している。

このように、「いつまで経ってもあと30年」と言われている核融合ではあるが、次の30年は最後の30年と言えるところまで、研究開発が進展してきている。


核融合はカーボンニュートラル実現に間に合うのか

世界の主要先進国は、2050年のカーボンニュートラル実現を目指して、様々な政策を打ち出している。核融合が実用化すれば、カーボンニュートラルの実現に多大な貢献をするが、今の開発スケジュールでは「今世紀中葉の実現」を掲げているのみで、このままでは2050年には間に合わない。そこで各国では、原型炉計画の前倒しを検討している。

英国では、2040年までに原型炉を建設して発電を目指す戦略とその立地の候補地を2021年に公表している。米国では、2040年代までに核融合パイロットプラント(発電炉)を建設する提案が2021年に出される一方で、2035~2040年に発電を目指すとの提言も出されている。中国においては、ITERに並行して、それと同規模の核融合工学試験炉(CFETR)を建設した後、これを2030年代までに発電炉に改造する計画である。

一方で、新たな流れも欧米では生まれている。

将来膨大な電力を消費するといわれているIT企業などが投資して、核融合のベンチャー企業が続々と立ち上がっている。その中には目的に特化した小型の核融合炉を独自に開発して、それぞれ2040年頃の発電を目指しているベンチャー企業も存在する。

米国のCommonwealth Fusion Systems社は、2,200憶円以上の資金を調達し、2025年に核融合実験炉を稼働させることを目指している。また、カナダのGeneral Fusion社も200億円を超える資金を調達し、Fusion Demonstration Plantを英国内に建設する協定を2021年に締結した。

欧米のこうした流れを受け、我が国でも今世紀中葉としていた原型炉による発電実証のロードマップを前倒しする議論が進められている。また、国内でも核融合ベンチャー企業が3社立ち上がっている(2022年7月現在)。また、核融合発電の実用化を睨んで、核融合産業の育成、産業化へ向けた人材育成も検討が始まっている。


今、核融合は注目されている

このように、「いつまで経ってもあと30年」と言われてきた核融合は、その実現が現実的なものとなってきた。2050年カーボンニュートラルにはおそらく間に合わないだろうが、間違いなく、将来の脱炭素社会を長期にわたり維持していく中心的な基幹エネルギー源となることが期待できる。

長い間「夢」であった核融合が、今、「現実」のものとして注目されている。

次回から、この核融合について、その原理、利点、課題等について紹介する。

©︎Y.Maezawa

(編集:前澤 祐貴子)

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