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《路傍−1》 石  もりしたなおき
交流の広場 | 2020.08.06

石はそこで静かに、どっしりと佇んでいる。

そこにいてずっと、人々の往来や生死を見てきたに違いない。

しかし、黙して語らず。

変わる世の中にあって変わらないもの。

それが石だ。

石は人にとっては不動の永遠であるが、物質としては違う。

石は地球の造山活動の結果である。そこに地球の進化が凝縮されている。そして地球は無数の星たちの一つ。その星たちもやがて消滅し、悠久の時を隔ててふたたび誕生する。宇宙の生成の運動のなかに一瞬だけ生成するひとかけら、それが石だ。

石は、不動の永遠ではなく、

悠久の過去と未来を抱え込む動的な永遠を宿している。

その石に人は自らの信じた観念を刻み込む。そこにうっすら見える文字は、聖なる文字、サンスクリットだ。文字の円環が表現するのはおそらく悟りの境地だろう。つまり、ブッダが捉えた真理である。

真理の「真」(旧字体)は「首を下げて横たわる死体」を象る。つまり死だ。なぜ死が真理か。人生は変動するため毀誉褒貶も一定しない。しかし死後には一定不変である。そこから死が永遠不変の真理に転じる。人は真理であれとの願いを込めて、石に実体のない観念を刻み込むのだ。

宇宙の動的な永遠と人間の静的な永遠、

物質と観念の二重の永遠。

石は二重の永遠を宿しながら、

今日もそこに佇んでいる。

 
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