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【寄稿E】(5)気分はパリ オペラ座でバレエ鑑賞 遠藤幸英
時代への提言 | 2022.01.11

©︎Y.Maezawa

気分はパリ・オペラ座

バレエ鑑賞


演劇研究家 

遠藤幸英

パリ・オペラ座バレエシネマ『シンデレラ』(2018年12月公演)

2021年12月下旬松竹系映画館で上映中。

大晦日まで上映するのは新宿「東劇」のみ。


帰宅後ネット動画でこの映画がフルで公開されていて驚いた。

The Dances, Inc.が投稿主である。

https://www.youtube.com/watch?v=H7OAOPRl84I。このサイトではほかにも著名なバレエ作品が10本あまり全編公開。著作権の問題に抵触しないのかな。しかし3千円あまり支払った値打ちはある。画面は大きく、鮮明だし、音響もいい。

バレエ版『シンデレラ』はC. ペローの童話『サンドリヨン(シンデレラ、灰被り姫)』を基本にした物語である。

だが、今回上映された『シンデレラ』は、1986年以来当時のオペラ座バレエ芸術監督だったルドルフ・ヌレエフによる大胆な構成および振付が定着していて、幸薄い娘がハリウッド映画界でセレブの地位を獲得するという設定になっている。

4年前(今や毀誉褒貶相半ばする)ロシア出身のバレエ・ダンサー、セルゲイ・ポルニンの伝記的ドキュメンタリーをyoutubeで見て以来 にわかバレエ・ファンになったものの、鑑賞経験の少ない私はこの新解釈を知らなかった。

ネット上の「ヌレエフ顕彰サイト」にはヌレエフ自身の発言を引用しながら一種冒険的な解釈が生まれた背景が述べられている。


“When Petrika Ionesco first suggested the idea of a Hollywood Cinderella to me, I was not very keen: I was afraid that Perrault’s fairy story would be changed out of all recognition. Should I be sorry that this suggestion slid itself insidiously into my head, so that I couldn’t get rid of it? I eventually said yes, and went straight to work on the choreography with this idea in mind.”

「ハリウッド」のコンセプトはヌレエフの発案ではなかったんだ。

彼自身(舞台装置ならびに衣装担当の)ペトリカ・イオネスコの提案に当初は戸惑っていたのだ。ちなみにイオネスコ(男性)は、1946年ルーマニア生まれのフランス人舞台監督、舞台美術家、劇作家である。

©︎Y.Maezawa











そんな常識も持たない私は事前にネット情報でCinderella goes to Hollywoodだと知ったとき、ひょっとしてアメリカ文化に阿っているのじゃないかと頓珍漢な不安をいだいてしまった。

©︎Y.Maezawa

でも さすがバレエに命をかけたヌレエフのこと、バレエとしてみごとに自立している。

ハリウッドはあくまで背景として位置づけられていて、主役(シンデレラ役のヴァランティーヌ・コラサントValentine Colasante とカール・パケットKarl Paquette)を中心に多数のダンサーが繰り広げる舞台はバレエの世界そのものだ。


ただし舞台装置はハリウッドの雰囲気に包まれている。

©︎Y.Maezawa

舞台いっぱいにロサンジェルスのビル群。ハリウッド撮影所界隈では『キング・コング』(1933年制作)の大型フィギュアが登場、また当時のミュージカル映画ヒット作の有名シーンが次々に展開される。

1930年前後ハリウッドの黄金期の映画撮影現場に敏腕俳優スカウトに見出されたシンデレラが現れ、当時の映画界の男性トップ・スター(PrinceつまりシンデレラにとってPrince Charming白馬の王子)とめぐり会う。


世界の映画市場を長らく席巻してきたハリウッドのイメージは誰にも親しみやすい。

とはいえこの舞台の主役にはなれない。

世界トップクラスのオペラ座バレエ団、その中からこの公演のために選抜されたダンサーたちが舞台狭しと繰り広げるダンスは圧巻だ。

©︎Y.Maezawa


バレエ・ダンサーは生身の肉体を非情とも言える訓練の繰り返しを通して鍛え上げる。そのスリムな身体に備わるのは激しくかつ優雅な動きを可能にする筋肉。ダンサーたちの超人性はある種<天上びと>に通じるのではないか。


『シンデレラ』はシンデレラとプリンスの相舞踊で幕を閉じる。

この時舞台上方から<白い薄衣>が舞い降りてきてシンデレラが身にまとう。

これはまさに(継母たちに汚れ仕事の家事を強いられ婢扱いという虐待を経験した薄幸の娘シンデレラの正体が<天女>であることを暗示しているのではないだろうか。そして舞台に登場した全てのダンサーもその優雅さ、華麗さにおいて天女を取り巻くプチ天人と言えそうな気がする。

©︎Y.Maezawa


余談ながら、『シンデレラ』が継母いじめという点では世界の民話、伝説に広く共通するのと同様、「羽衣celestial robe of feathers伝説」もけっして日本固有のものではなく広くアジア、いや世界各地にあるらしい。


もう一つついでに余談を。シンデレラ説話について国際的な視野から考察した論文がネットで公開されている。論文コレクションhttps://www.jstor.org/で簡単登録すればChieko Irie Mulhern氏の論考が読めるし、関連文献もネットで公開されている。


 “Analysis of Cinderella Motifs, Italian and Japanese”,

Asian Folklore Studies

Vol. 44, No. 1 (1985), pp. 1-37 (37 pages)

第8回国際日本文学研究集会研究発表 (1984年11月)

お伽草子の切支丹シンデレラ -

「花世姫」「鉢かづき」「姥皮」のモデルと出典の考察-

file:///Users/endoyukihide/Downloads/I0803%20(1).pdf

(編集:前澤 祐貴子)


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