システム倫理学の三番目の特徴は、関係者の対立状況に関して、対立の移動を目標にすることによって現実的に対応する点にあります。
コミュニケーションでは関係者の観点が異なるため、たとえ顕在化しないとしても対立関係が避け難く生じます。従来は二つの解決モデルがありました。一つは関係者の一方の側に他方の側を引き寄せる<片側同化モデル>であり、もう一つは関係者の相互理解を通じて一致をめざす<両側合意モデル>です。ただし、両モデルはどちらも「理解」による一致という誤解の上に成り立っています。
システム倫理学が提唱するのは<両側並行モデル>です。これは関係者の観点の違いを重視し、対立関係の解消ではなく対立の移動をめざします。双方の側は外部からの情報を自分で解釈し、必要とあれば自ら変容します。その際、対立状況をもたらす一連の対立点あるいは争点を連関づけることができれば、それを参考にしながら自己変容がいっそう促進されることでしょう。これを<論点連関アプローチ>と呼びます。
相互に関連する対立点を<四機能図式>によって構成したものが<論点連関の一般的な枠組み>です。これは社会システムの四領域とコミュニケーションの四群と個人の四次元が同心円状に重なったものです。この枠組み背景において具体的なコンテクストを分析することによって、特定の対立状況を特徴づける論点連関が浮かび上がります。
<両側並行モデル>では、当事者が特定の<論点連関>表をテーブルに広げて向き合います。向き合うなかで双方の内部に、論点の明確化、異なる観点の認知、論点の偏りの把握、バランスの回復のプロセスが生じます。これがうまく循環すると固着していた対立関係が動き出します。その際、適切な助言者がいれば、移動さらには促進されます。適切な助言者の有力候補として期待されるのがとくに老人世代なのです。