システム倫理学について

システム倫理学とは…

以下 一般社団法人 老成学研究所 初代所長 森下直貴氏(第一期 2018 08 31~2022 12 31)が
 当法人において自身の生涯を賭けて普及させたいとされた持論 老成学 を支える理論として
掲げられた持論 システム倫理学 の簡略な説明です。
2018年 当法人創設時に著したものとなります。

<老成学>は「システム倫理学」の四分野の一つです。つまり、<老成学>の基礎には「システム倫理学」があります。ここでは「システム倫理学」について三つの特徴(包括性・分析力・柔軟性)に絞って説明します

1.包括性をもたらす
<構造化>という視点

あらゆるものごとの関係は、そこで何か(munus)がやりとりされる(communus)限り、コミュニケーション(communication)といえます。人間のコミュニケーションの場合、やりとりされるのは「意味の解釈」であり、これが四段階で循環します。

システム倫理学の第一の特徴は、倫理に関わる多様な現象を「包括的」に捉える点にあります。

「倫理」は人間が関わるすべての事象に伴います。すなわち、人としての生き方や、人と人あいだの信頼関係だけでなく、集団のあり方、組織の構成原理、全体社会の思想、時代の趨勢にまで広がり、また、経済・社会(共同体)・公共・文化といったあらゆる領域に関連します。

従来の倫理学は、個人の徳や人間関係の理想を共同性の観点から規範的に論じるだけでした。それに対して「システム倫理学」は、あらゆる倫理現象を同型的に捉えた上で、そこに区別と連関を導入します。これを可能にするのが「コミュニケーションシステムの<構造化>」という視点です。

二人のあいだでコミュニケーションが成り立っているとき、双方の内部では「情報認知」→「真意解釈」→「解釈比較」→「総合評価」の四段階が進行します。そしてそこに一定の解釈パターンが成立し、これを核として意味の連関が出現すると、この<意味連関>の働きによってコミュニケーションの進行が方向づけられ維持されます。

この意味連関の働きを<構造化(structuring)>、構造化によって維持されるコミュニケーションのプロセス全体を<システム(system)>と呼びます。

システム倫理学では、「倫理」の「倫」(字義では「人々が順序良く並んでいる様」)が<コミュニケーションシステム>に対応し、「理」(字義では筋・道)が<構造化>に当たります。したがって例えば、個人の内部の自問自答はコミュニケーションであり、これをシステムとして維持している「信念」が<構造化>になります。同様に人々の集団もコミュニケーションを行なっており、それをシステムとして維持している慣習や約束事が<構造化>になります。

2.人間の意味世界を
具体的に分析する
<四機能図式>

人間のコミュニケーションの論理は四区分です。四区分は人間の意味世界を貫いています。四区分を平易に表現すると<四機能図式>になり、これを用いることで複雑な人間の世界が再構成できます。

システム倫理学の二番目の特徴は、<構造化>の働きを<四区分>することによって倫理の複雑な現実を把握する点にあります。

コミュニケーションにおける四段階の<意味連関>は、論理的に再構成すると、<外面/内面>と<直接/間接>の二軸四区分になります。すなわち、直接・外面の<対外性>、直接・内面の<対内性>、間接・外面の<対他性>、間接・内面の<対自性>です。つまり、直接(知覚)レベルの外面から内面への動きが一階上の間接(思考)レベルで反復されるのです。

この二階建ての二軸四区分を平面上に投影すると<四機能図式>がえられます。

なぜ<四区分>なのか。その答えは人間の<構造化>が三層から構成されているからです。すなわち、外界(環境)と関わるなかで生じる刺激-反応のパターンを情動によって調整する「本能」(第一次構造化)、「本能」を時間差と記憶によって調整する「知能」(第二次構造化)、知能を非身体的な記号によって概念的に調整する「理性」(第三次構造化)の三層です。さらに記号による構造化は自己言及的になります。このように三層構成に基づいて人間の意味世界は四区分されるのです。

<四機能図式>をもって人間の意味世界を再構成してみますと、まず、コミュニケーションに関わる当事者の内部は、四段階のプロセスに対応して、行動・心情・交渉・内省の四次元になります。

次に、当事者双方の「目的(意味連関)」が合致すれば、コミュニケーションは円滑に進み、システムとして成り立ちます。したがって、四次元同士の目的の合致からコミュニケーションは四群に分化します。すなわち、協働や工夫をめざす実用型、共感一体をめざす共同型、利害の調整や妥協をめざす統治型、日常を超えた理念や価値の共有をめざす超越型のコミュニケーション群です。

最後に、コミュニケーション群が土台になり、機能的に限定された目的を中核とする社会システムが分立します。社会システムは四群のコミュニケーションに対応し、実用型の経済、共同型の(狭義の)社会、統合型の公共、超越型の文化の四領域になります。

社会システムの四領域の内部はさらに四区分されて16分野になります。すなわち、経済では産業・テクノロジー・市場・生活、社会は福祉・ヘルスケア・育児/介護・教育、公共では行政・世論・政治・法、文化では遊び・芸術/スポーツ・科学・哲学/宗教です。これらが連関し合って全体社会を構成します。

以上でみた社会システムは人々の集団すなわちコミュニティ(community)によって担われます。コミュニティは二種類あります。一つは家族や国家のように社会システム連関を未分化に包摂するものです。もう一つは企業体・共同体・党・結社のように特定の社会システムを軸にするものです。

既存の倫理学ではコミュニケーションおよびコミュニティが共同型と同一視され、倫理は経済や政治や文化に対立すると捉えられてきました。システム倫理学は<四機能図式>を用いることによって、社会システムとコミュニティの区別を含め人間の複雑な意味世界を区別し連関づけることができるのです。

3.対立関係の移動をめざす<両側並行モデル>

実際のコミュニケーションでは関係者の観点の違いから対立が生じます。対立の消滅ではなく移動という現実的な目標を設定するのが<両側並行モデル>です。<両側並行モデル>と<四機能図式>を組み合わせた方法論が<問題連関アプローチ>です。

システム倫理学の三番目の特徴は、関係者の対立状況に関して、対立の移動を目標にすることによって現実的に対応する点にあります。

コミュニケーションでは関係者の観点が異なるため、たとえ顕在化しないとしても対立関係が避け難く生じます。従来は二つの解決モデルがありました。一つは関係者の一方の側に他方の側を引き寄せる<片側同化モデル>であり、もう一つは関係者の相互理解を通じて一致をめざす<両側合意モデル>です。ただし、両モデルはどちらも「理解」による一致という誤解の上に成り立っています。

システム倫理学が提唱するのは<両側並行モデル>です。これは関係者の観点の違いを重視し、対立関係の解消ではなく対立の移動をめざします。双方の側は外部からの情報を自分で解釈し、必要とあれば自ら変容します。その際、対立状況をもたらす一連の対立点あるいは争点を連関づけることができれば、それを参考にしながら自己変容がいっそう促進されることでしょう。これを<論点連関アプローチ>と呼びます。

相互に関連する対立点を<四機能図式>によって構成したものが<論点連関の一般的な枠組み>です。これは社会システムの四領域とコミュニケーションの四群と個人の四次元が同心円状に重なったものです。この枠組み背景において具体的なコンテクストを分析することによって、特定の対立状況を特徴づける論点連関が浮かび上がります。

<両側並行モデル>では、当事者が特定の<論点連関>表をテーブルに広げて向き合います。向き合うなかで双方の内部に、論点の明確化、異なる観点の認知、論点の偏りの把握、バランスの回復のプロセスが生じます。これがうまく循環すると固着していた対立関係が動き出します。その際、適切な助言者がいれば、移動さらには促進されます。適切な助言者の有力候補として期待されるのがとくに老人世代なのです。

以上、システム倫理学の三つの特徴を説明しました。とくに強調したかったのは<四機能図式>です。これは多様な分野の問題状況を分析するツールとして有効です。これを用いると、例えば社会保障制度の根幹であるQOL尺度を再構成し、介護等の現場に応用することができます。

老成学はシステム倫理学を支えとして、デジタル時代における老人世代の生き方と<老成社会>のあり方を探求します。システム倫理学の詳細な内容については、2020年2月に刊行しました、『システム倫理学的思考 対立しながらも、つながり合う』をご覧ください。

老成学はシステム倫理学を支えとして、デジタル時代における老人世代の生き方と<老成社会>のあり方を探求します。システム倫理学の詳細な内容については著書をご覧ください。いま執筆中ですが、出版されましたらホームページにてお知らせします。

© 老レ成 AGELIVE. All Rights Reserved.
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