交流の広場

老成学研究所 > 時代への提言 > 『天体衝突現場への旅』5回シリーズ 寺川進 > 天体衝突現場への旅 第5回/全5回シリーズ; 第5章 これから起こる天体衝突 「エピローグ: 旅の終わり」  寺川 進

天体衝突現場への旅 第5回/全5回シリーズ; 第5章 これから起こる天体衝突 「エピローグ: 旅の終わり」  寺川 進
時代への提言 | 2025.11.16





天体衝突現場への旅

第5章

これから起こる天体衝突

                  2025-9-18     

寺川  進

近未来の天体衝突


この文をほぼまとめ終えた2024年12月になって、チリにある巨大望遠鏡が、ある小惑星を観測し、2024 YR4と命名した。大きさは 40〜80 m である。その軌道から推測すると、何と、2032年に地球に衝突する可能性があるという。確率は 1〜2%である。ほゞ、99%は衝突しないのだが、確率は、今後の観測結果や、他の小惑星との不測の接触などで、変わる可能性もある。2025年5月以降は、太陽に近づく(地球の昼の空に来る)ため、観測ができない。

た。大きさは 40〜80 m である。その軌道から推測すると、何と、2032年に地球に衝突する可能性があるという。確率は 1〜2%である。ほゞ、99%は衝突しないのだが、確率は、今後の観測結果や、他の小惑星との不測の接触などで、変わる可能性もある。2025年5月以降は、太陽に近づく(地球の昼の空に来る)ため、観測ができない。



2029年には、アポフィス(死の神)と名付けられた 3-400 m の小惑星が、地球のそば 3万 km の辺りを通過する。これ
は、日常的に運用されている静止衛星の高さより低いものだ。この先、隙を窺うように、何度も地球のそばにやって来るらしい。知れば知るほど、不安が高まる一方である。



恒星系の衝突


最後に、ほんの少し、遠い未来に目を向けてみたい。銀河系には、太陽を含めて多くの恒星があり、周回運動をして
いる。それらの軌道は平行というわけではなく、個別の楕円に近い形である。ときに交差する。130万年後には、グ
リーゼ 710という太陽より小さく暗い恒星が、太陽系の外縁に近づく。その結果、オールトの雲にある小惑星(彗
星の元)を吸い込むとともに、一部を四方へ飛散させる。太陽方向に向かったものは、沢山の彗星となって、地球
に降り注がれる。


巨大質量同士の衝突


過去に起こり将来にも起こる天体の衝突として、ブラックホール同士や、中性子星同士の衝突がある。このような衝
突は、周囲に重力変動の波を放射するので、重力波を観測することで確認される。そんな波は、毎年のように、観測
されている。恒星の寿命が尽きると、超新星爆発という現象を起こして、大部分の物質が宇宙空間に吹き飛ばされる。
爆発の過程で鉄より重い元素が生成され、同時に、爆発の中心に小さいが重い物質が残される。これがブラックホール
や中性子星となる。銀河内でできたブラックホールは互いに引き合い、衝突して成長する。何度も衝突を起こす結果、
銀河の中心には、超大質量のブラックホールができ上る。このようなものは、天の川銀河に、その存在が証明されてい
る。どの大きな銀河にもこうしたものがあるという。


中性子星同士の衝突は、特別な原子の生成に重要である。前出のイリジウムや同類の金、銀、プラチナは、こうして生
まれる。中性子星は、それを構成する素粒子が中性子だけになり、その間には電気的反発力が働かないため、中性子同士
が、まったく隙間なく詰まっている状態にある。 最も密度が高い物質の状態であり、大きさの割に著しく重い。そんな
小さな星同士が2つ出会って衝突することは、極めて稀である。それが、地球上にはそれらの金属が僅かにしか存在しな
い理由である。

銀河系の衝突

 

 現在の最も信頼できる天体観測によれば、将来、天の川銀河が、 他の天体の大衝突を受けると予測されている。
相手は、今はまだ 250万光年離れている、お隣のアンドロメダ大星雲である。40億年以内にそうなるらしい。銀
河同士の衝突は、宇宙のそこここで起こっている珍しくない現象である。渦巻形をしている銀河は、皆、複数の球
状星団などが衝突合体してできたものである。


銀河や星団同士が衝突合体しても、恒星の大きさに対して恒星間の距離があまりに離れているため、中に含まれる恒
星同士が衝突することは殆ど無いという。しかし、太陽系一家の運命は危ぶまれる。衝突による二つの銀河の引力が
合わさって、渦巻くような腕を造り、それが振られるときに、太陽を合体銀河の外の空間に放り出す恐れがあるのだ。
星同士の衝突は起こらないとしても、銀河全体の質量分布が大きく変わるので、太陽系に働く星々からの引力が変わ
り、これまでに無い加速度が生じるわけである。加速度の方向が太陽系の場所に依り異なる可能性があり、地上の平
穏は終わり、とてつもない大破滅になるかもしれない。


一方、それぞれの銀河中心にある超大質量ブラックホール同士は、巨大な力で引き合うので、必ず衝突する。超大質
量ブラックホール同士が衝突すると、物質の飛散は無いものの、重力波が事象の地平線を超えて宇宙に放射される。
全質量の 5%がエネルギーに変換され(E = mC2)、異方性のある重力波となって、想像を絶する宇宙大地震を起こす
のだ。


実は、こうしたことを心配しなくてもいい理由も想定されている。銀河同士の衝突が起こるはるか前に、我々の太陽
の最後が訪れる。最後には、今より熱くなり膨らむのである。地球は太陽に呑み込まれてしまう。これは、地球とい
う天体が、太陽に衝突する現象だと言える。地球から見れば、太陽が空一杯に膨らんで地上を覆う日が来た、という
ことになる。杞憂が杞憂に終わらない日になるのだ。


天体同士の衝突は、目の前で起こるのを頻繁に見ることはなく、非常に稀な現象のように思われる。しかし、⻑い宇
宙時間の流れの中では、どこかで必ず起こる現象である。それは、この世のすべての物質に万有引力が内在している
以上、絶対に逃れられない。物質が、宿命として経験する、物質同士の相互作用である。これが、宇宙を進化させ、
宇宙の大構造を形成する原動力である。この過程には、通常の物質に内在する引力(重力)だけでなく、ダークマター
からの引力も働く。ダークマターは、通常物質に衝突することなく、通り抜けてしまうが、引力だけは作用する物だ
という。


小さな世界の衝突


一転して、目を小さな原子の世界に向けると、引力ではなく、近距離で強い作用を持つ電気力が前面に出て、原子同士
を衝突させたり、結び付けたりしているのが分かる。そのような結合が、複雑な分子の形成に繋がり、日常世界の万物
流転を演じてい る。結局は、極小から極大まで、物体の離合集散する姿が、誕生と消滅の本質であり、分子・ 人間か
ら星・銀河までに共通した、生と死の正体である。



エピローグ:旅の終わり



偶然の旅が起こした波紋


第1章から第3章に書いた天体衝突のいずれも、それぞれ各地で、偶然に起こったものである。私は、そのことをまった
く知らずに、各現場への旅をした。そこで過去に起こったことは、生物や人にとっては、不幸な大災害であった。しか
し、こんなにうまく偶然に導かれて旅をした人間は、ひょっとすると、世界中で、私と妻の 2人だけかもしれない。そ
う思うと、宝くじに当たった様な高揚感が湧く(たとえ私たちが何度も旅行へ出かけたことが、偶然を招いた原因だと
しても)。新しい事実を知るだけで、過去の自分がいかにラッキーだったかが分かるのは、とても幸せなことである。
それに気づかずにいたら、何と勿体ないことであろう。


それらの旅は、地球上、数千キロ程度の移動であった。今から考えれば、5年から 45年前程度の昔の旅である。旅をし
た当時は、全然知らなかったことを、この歳になって初めて知るようになった。それらは、自分が若くして死んでいれ
ば、当然、知らずに終わったことである。なぜなら、それらは、皆、弛まぬ研究によって、最近になって初めて分かっ
てきたことなのだから。そのお陰で、数十年昔への懐古の旅は、数千年、数十万年、さらに、数千万年昔への想像の旅
に広がったのだ。正に、老成していくことには、大きな価値があるのだ 


次に備える


現代においても、人類がジャワ原人たちと同様の自然災害に遭う可能性は十分にある。それへの備えはあるであろう
か。衝突の粉煙が消えぬ3年間ほどを、生き延びるだけの食料を備蓄することは可能であろうか。大きな地震と津波
が起きると、殆どの沿岸都市は壊滅する。原子力発電所は、暴走、爆発する。放射能汚染は壊滅的である。電気も石
油もすぐ底をつく。海運を始め、陸上の交通も寸断される。天体の衝突現象は、地球を造り、有機物を作って、生命
の誕生を後押ししたものであるが、また、地上の生命を消滅させる選択もする。


頼りになるかもしれないのは、数百メートル以上の高地の畑だけであるが、空にぶ厚い雲が覆い続けて、太陽が顔を
出さないと、耕作は無理である。海の植物も、太陽無しでは育たず、 魚類も生きられない。穀類やとうもろこし、
芋類を保存しておくことだけが、絶滅を防ぐ唯一 の方法となるかもしれない。それらの種子の保存も重要であろう。
陽の光が要らないキノコ類やもやし、ホワイトアスパラも良いかもしれない。冷蔵庫は使えるだろうか。缶詰、び
ん詰、レトルト食品など、現代的な保存法も良いが、塩と酢に頼るのも良い。


冬眠ができれば、生き延びられるかもしれない。動物実験では、 視床下部の電気刺激によって冬眠が始まるといっ
たことが分かってきている。そんな技術を、 早くヒトに使えるように、実用化研究を加速べきかもしれない。いず
れにしても、大飢饉となり、どのくらいの人口が生き延びられるかの問題となる。宇宙放射線を遮る容器に DNA を
入れて、火星や木星の衛星、また、あての無い宇宙空間に、ロケットで送り出すのが、唯一の希望の火にならないと
も限らない。


楽観的に考えれば、人類が滅亡しても、他の生物種、特にバクテリアや、海の原始的な生物は、生き残れる可能性
がある。そこから再び⻑い進化の道を辿れば、人類のような動物種が、 再び地球上に現れる可能性はある。地球
との衝突コースにある大きな天体は、明日、天空のどこかに発見されるかもしれない。その軌道を何とか押し曲げ
る方法を考えることが、人類全員に対する喫緊の要請となるかもしれない。戦争は言うに及ばず、ほとんどの人間
活動を一時停止して、全員で人類滅亡の危機に立ち向かわなければならなくなりそうだ。


生物や人類が太古に体験した自然災害の原因は、自然の世界が始まった頃の成り立ちそのものに、端を発している。
地球に衝突する主な天体は、太陽系が生まれた頃にできたものだ。その時代からの大きな宇宙の流れと、私の小さな
旅が、現在の私に、太古の昔に起こった太陽系誕生の頃の様子までも、見させてくれたのだ。SL9 の木星衝突では、
地球上のどこに旅行に行かなくても、その現場のできごとを目撃することになった。この地上に災害は起きなかった
ものの、身の凍るような経験を、生きているうちにしたことになる。同じことが地球に起こる日もいつかは来るであ
ろう。


地球全壊滅


ノアは大きな船を造って大洪水を何とか生き延びた、という伝説がある。船には多くの動物や植物を乗せて、次の世に
伝えた。地球全体が砕け散って、宇宙に四散するほどの手に負えない全壊滅が起こることが分かったら、人類はどうす
べきであろうか。できることはあまり無いが、次の時代が始原状態から始まるまでの繋ぎの時間を、短くするにはどう
するのか。宇宙に向かって生き物の種子を撒き散らすにはどうするのか。地球を諦めて他に住める場所を作り出すには
どうするか。人類が再生できなくても、その文明の痕跡の一部でも宇宙に残すにはどうするのか。生き物の中で、最も
高度な知恵を持つと自負している人類としては、危機が起こる遥か前に、アイデアだけでも、考えておいた方がよいの
ではないか。



























* 作品に対するご意見・ご感想など 是非 下記コメント欄にお寄せください。
尚、当サイトはプライバシーポリシーに則り運営されており、抵触する案件につきましては適切な対応を取らせていただきます。

















 
一覧へ戻る
© 老レ成 AGELIVE. All Rights Reserved.