交流の広場
老成学研究所 > 時代への提言 > 【寄稿B】教育者 岡本肇シリーズ > 【寄稿B】《No.22》「マンダラ・チャート」 西遠女子学園 学園長 岡本肇
マンダラ・チャート
西遠女子学園 学園長
岡本 肇
七回目の年男、
84歳の誕生日を迎えた時
思った。
この先、自分は いつまで どう 生きてゆくのだろうか。
新聞の訃報欄を見ていると 80代から90代前半に亡くなる人が多い。
男の平均寿命は 81歳だから、単純に言えば それまでに半分は死んでいることになる。
そのような現実があるのに
人生100年時代 などという言葉に乗せられて
うかうかと雑事や気晴らしで 晩年を過ごしてしまうのも心許ない。
100年時代と言っても
今年の老人の日に発表された100歳以上の老人は 全国で95,000人、
そのうち 男は僅か11,000人、12%である。
「徒然草」 第四十一段
京都の上賀茂神社で競べ馬が催された時、木に登って良い席を取っている法師が待つ間に眠りこけて
度々 木から落ちそうになっているのを見た人達が
「なんという愚か者だろう。あんな危ない木の上で よく居眠りができるものだ。」
と笑った。
兼好は ふと 思う。
「我等が死の到来。ただ今にやあらん。
それを忘れて 物見て暮す。愚かなることは、なおまさりたるものを」
「木の上で居眠りをする法師は愚かだが、
明日をも知れぬ命を忘れて物見に来ている自分の愚かさを自覚しないで笑う人々は 増して愚かである」
と言っている。
年の始めに賀状が来た人でも 年内に何人かは亡くなっている。
人間 いつ 死ぬか、
本人でも 知らないのである。
自分もこの先 頑張っても せいぜい90歳までがいいとこだろう。
90歳まで あと6年。
日数にすると およそ2000日 である。
あと2000日 と考えて カウントダウンを始めると
一日一日は 実に早く 過ぎてゆく。
2000粒の砂が入った砂時計から
下の受け皿に 砂が落ちてゆく様を見るようである。
この流れは 一瞬も止まることなく 正確に 続いてゆく。
宇宙の法則であり、自然の摂理であって 止めることはできない。
あと2000日 をどう生きるか を考えて、
マンダラ・チャートを作ってみた。
これは ビジネスで 目標達成や問題解決の方法として 考えられるもので 自己啓発のためにも使われている。
最近では 大リーグの大谷翔平選手が高校時代に使っていた と話題になっている。
9x 9マスの表を作り、その中を 3x 3マスのブロックに分ける。
中心のブロックの真ん中に 自分が目指す大目標を書き、
それを囲む8つのマスを 中目標で埋めてゆく。
ちなみに 大目標に 「よく生きる」と書いてみた。
その周りの中目標のマスに
「和顔愛語」、「凡事徹底」、「日々是好日」、「自分を磨く」、
「一人を慎む」、「身辺整理」、「健心康体」、「家事専心」
と書いた。
それを さらに外側のブロックの中心に入れて、
その周りのマスに 日常生活で実践することを 8つ入れてゆく。
すると 日頃 心がけなければならない実践項目が64、できるわけである。
これらの言葉が
これから2000日のラストランのガイドライン になってくれる
と思った。
「和顔愛語」のブロックには 実践項目として、
「いつも笑顔」、「先に挨拶」、「ありがとうの感謝」、「優しい言葉がけ」、
「傾聴」、「嘘をつかない」、「悪口を言わない」、「怒らない」
を挙げてみた。
どれも 子供に言い聞かせるような 当たり前のことだが、
いざ 自分が毎日やるとなると 難しい。
「いつも笑顔」と言っても 嬉しい時や機嫌の良い時はいいが、体調の悪い時や心配事を抱えた時の笑顔は 努力を要する。
「顔で笑って 心で泣いて」ではないが、悲しさや淋しさを乗り越えた笑顔である。
80を過ぎたら
辛くても 苦しくても 笑顔でいられなくてどうしよう
というものだ。
「先に挨拶」も 常に自分を下に置いて 謙虚でなければ 先にできない。
80を過ぎて 公務から身を引けば 威張ることもへつらうこともない。
誰にでも 公平に 対等に 先に挨拶できることが肝要である。
毎朝 散歩するときに出会う人も こちらから先に挨拶すれば 向こうも挨拶を返してくれるようになる。
「ありがとうの感謝」も 物をもらったり 助けてもらった時だけでなく、
さりげない親切や心遣いにも 気がつかなければいけない。
「ありがとう」は 「有難い」という漢字から来ているから、
そんなことは普通にはあり得ない という感動を伴った言葉である。
妻に先立たれて3年になるが、
自分で家事をやってみると 黙ってやってもらっていたことに 沢山 気がつく。
後で悔やんでも その時、その場で 気がついて
「ありがとう」と言わなければ、意味がない。
ことほど左様に 一つひとつの項目を実行してゆくことは大変である。
それが 64項目となると いささか怯んでしまうが、
ユダヤ教徒は毎日守るべき戒律が680あったそうだから
それに比べれば まだいい方だろう。
「老いを善く生きる」という人生最後の課題を背負って
マンダラ・チャートを頼りに
2000日の旅を始めよう
と思う。
(編集: 前澤 祐貴子)
* 作品に対するご意見・ご感想など 是非 下記コメント欄にお寄せくださいませ。
尚、当サイトはプライバシーポリシーに則り運営されており、抵触する案件につきましては適切な対応を取らせていただきます。