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老成学研究所 > 時代への提言 > 【寄稿B】教育者 岡本肇シリーズ > 【寄稿B】《19》「認知機能検査」 西遠女子学園 学園長 岡本 肇
認知機能検査
西遠女子学園 学園長
岡本 肇
70歳を越えると 自動車免許証の更新の時 特別講習が義務付けられる。
さらに 75歳以上になると 認知機能検査が加えられる。
特別講習は 交通安全の啓蒙と教育が目的だが 機能検査は 認知症と判定されると 免許証が取り消される。
今年 4回目の認知機能検査を受けることになり
満点をとる意気込みで挑戦した。
検査問題は 警察庁のウェブサイトに公開されていて YouTubeに その傾向と対策が出ている。
その問題は 十年前に受けたのと同じである。
認知機能検査の内容の一つは 「時間の見当識」を試すもので 検査当日の年月日、曜日と時間を書くものである。指定された日時に 検査を受けに来ているのたから わからないはずはないと思うが 度忘れ ということもある。
次に 「手がかり再生」の問題がある。4つの絵が描いてあるカードを 順番に4枚見せられて 計16枚の絵を覚える問題である。1枚のカードを 1分ずつ見て 4つの絵を次々と覚えてゆかねばならない。
例えば 1枚目が 大砲→オルガン→耳→ラジオ、2枚目が テントウムシ→シーライオン→タケノコ→フライパン、3枚目が モノサシ→オートバイ→ブドウ→スカート、4枚目が ニワトリ→バラ→ペンチ→ベッド の絵が描いてある。このようなカードが AパターンからDパターンまで4組あって 検査当日は そのうちのどれかが出される。従って 64枚の絵を覚えておけばよいことになる。
しかし ひとつ 仕掛けがあって 絵を全部見た後に 0から9までの乱数字表が示されて その中から 指示のあった2つの数字を斜線で消す作業かある。この作業に集中すると 前に覚えた絵を忘れてしまう恐れがある。実は この乱数表の作業は 検査の得点と関係ないことを YouTubeで知った。だから 絵を忘れないように 適当にやっておけばいいのである。
3問目は 「時計描画」で 時計の文字板を書いて 指示された時間を短針と長針で示す問題である。
満を持して 検査会場に入ると 前回までのペーパーテストと違って 机上のタブレット端末を使って答える方式に変わっていた。私と同じように 普段 パソコンなど電子機器を使っていない人間には戸惑いがあって タブレットの画面を指で押したり 字を書くのも 心もとなかった。
「時間の見当識」を終って 「手がかり再生」のところで 16枚の絵の名前を書き始めたら 途中で終了してしまった。機械で 同時に採点していて 合格点に達したら 終わりである。その間 10分もかからなかっただろう。検査の目的は 認知症の心配があるかないかが分かればいいのだから それ以上 必要ないらしい。そうか、これが 合理的、効率的 ということか。前回までは 最後の時計描写まで 全員でやって 待っている間に 採点して 得点を教えてくれた。今回は コンピューターが採点して 必要な点数まで取れば その先は 何点でも関係ないのである。しかし 満点を目指して頑張った人間には 何か 空しい気がする。
今の世の中は 機械化、自動化によって 合理化、効率化が最優先に進められてゆく。コンビニへ行っても レジの横の支払い機にお金を入れるようになってきた。スーパーも 自分で バーコードをかざして 支払いをする。回転寿司もパネルを押すと 食べたいものが出てくる。注文から支払いまで 人を介さない味気ない時代になったものだ。
今回 満点にこだわったのは 前回の検査で100点だったので 病床の妻に報告すると ことのほか 喜んでくれたからである。自分が死んだ後の 私のことを心配していたのだろう。今回も満点を取って 仏前に 「まだ 大丈夫だよ」 と報告しよう と思っていたのに 合理主義、効率主義に阻まれてしまった。
人工知能が出てきて 判断したり 考えることも コンピューターがするようになり コスパ、タイパ 等という言葉が 跳梁する面妖な時代になってきた。
20世紀の初頭 ベルトコンベアとオートメーション化が進んだ社会を
チャップリンは 「モダンタイムス」という映画で嗤った。
もし チャップリンが生きていたら
今の時代をテーマに どんな映画を撮るだろうか。
(編集: 前澤祐貴子)
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