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核融合科学研究所&哲理人シリーズ
No. 5 (2)
哲理人 Profile : No. 5
村瀬 尊則
中島みゆき 作詞・作曲 『地上の星』
2000年リリース
「無名の人に光を照らす」という番組コンセプトから誕生
一世を風靡した。
「その歌詞は 哲学である」と言わしめた彼女…
♫ ツバメよ
高い空から 教えてよ 地上の星を ♫
と 真っ直ぐに刺した。
地上の星たちは 未だ 瞬き
輝いて 人類を支えている。
日本において
総人口は約1億2550万人(総務省人口推計 2021年10月01日)
うち
労働力人口は 約6727万人(総務省統計局 2022年04月)。
※労働力人口:15歳以上人口のうち 就業者と完全失業者を合わせた人口
地上の星たちは 空を見上げるのではなく
前を見て 足を踏ん張り それぞれに荷を背負い 汗を流しながら
存在を 点光のごとく 瞬かせ
居場所を照らしている…
人類に形態的進化が著しく認められなくとも
進化というものがあるとするならば
人は 地上で光を放つ星になった。
それ が
地上の星たちが コツコツと紡ぎ 繋げ 編み上げてきた
人類の歴史…である。
ここ日本にも ひときわ 輝きの強い星が存在する
その男は本当に優秀なのだろう。
その男を知る者は皆 「優秀である」と 口を揃える…
会う前から そんな人物認定されている人物と会うのは
ひどく興味をそそるものである。
いかに 優秀なのか?
どこが 優秀なのか?
何故 優秀なのか?」
そして どう その優秀性を活かしているのか?
名は 村瀬尊則氏、45歳。
初めて会うと 20代かと見間違う若々しい初々しさを纏っている。
礼儀正しく 控えめ 静かな佇まいは 謙虚な学生さんのようである。
現在 核融合科学研究所 技術部所属。
研究所研究者からの要請に応じ 技術的にそれを可能にする装置やノウハウを現実的に 落とし込み 実際の形にする。
その仕事ぶりをまずはご紹介しよう。
・閉構造ダイバータ用クライオポンプの開発
クライオポンプとは、マイナス250℃に冷却された活性炭(冷蔵庫の脱臭炭のようなもの)で 真空容器内のガスを吸着し 真空をつくるポンプ。
クライオポンプは市販品もあり 当初 実績あるメーカーが LHD用に設計し プロトタイプを製作。しかし 期待していた性能は出ず、結局、核融合科学研究所で独自設計することとなる。
村瀬氏は 性能のカギを握る活性炭の選定とポンプ構造設計を担当。
世の中に無数に存在する活性炭の中から独自製作した専用のテストスタンド。何度も性能試験を繰り返し、詳細に分析。結果 クライオポンプとして有望な活性炭を選択した。
さらに、シミュレーションを駆使し プラズマの強い輻射熱にも負けないポンプ構造を具現化。 最終的に、要求性能の1.5~2倍のポンプ性能を持つクライオポンプを実現。
高性能クライオ吸着ポンプによる高効率な排気を実現
-真空容器の中でダイバータに集めた粒子を排気-
https://www.nifs.ac.jp/research/r-report/lhdreport-o/mailinfo_300.html
・ダイバータ受熱板の開発
LHDなど 磁場閉じ込め型のプラズマ実験装置では、プラズマの温度上昇に寄与しない燃料ガス(水素)をすぐに排出する必要がある。このため、特殊な磁場構造を作ってプラズマの外側に不要なガスを導き、これを耐熱性の高いカーボン板に一旦当て、その後 排気する。
この時 カーボン板は 10 MW/㎡以上(例えば 原子炉燃料棒から出る熱は1 MW/㎡程度)の熱的な負荷を受け、さらに 一般的にカーボンが多孔質材料のため 実験装置中のガスをため込んでしまう。
故に 将来の核融合炉においては (プラズマにならなかった燃料を再利用するという運用上)支障が出るリスクがある。
以上の理由から、カーボンに代わり、高融点材料のタングステンを用いた受熱板の開発が 世界中の研究機関で精力的に展開されている。
最有力候補には 「耐熱性の高いタングステンでプラズマの熱を受け、熱伝導性の高い銅で素早く冷却水に熱を伝えて除熱する方式」が挙げられる。
つまり 「熱を素早く伝える」という観点から、タングステンと銅は 出来るだけ密着・接合していることが望まれる。
核融合科学研究所では メーカーとの共同研究により、タングステンと銅の接合方法(異種金属接合)を開発した。
タングステン と 銅 を電流を流すための電極でサンドイッチ。そこに大電流を流す。すると タングステンと銅の間に火花放電(プラズマ)が発生、部分的に超高温になって接着する という仕組み。
2020年9月18日、この成果は プレスリリースされた。
https://www.nifs.ac.jp/news/press-o/200918.html
また メーカーとの共同記者会見でも発表される。
さらに この関連技術は 特許化(特許「ダイバータ用異種金属接合体」(特許第6563581号)され、国際会議(31st Symposium on Fusion Technology : SOFT2020)にて発表された。
・CFQS工学設計
核融合科学研究所 と 中国の西南交通大学 との 国際共同プロジェクト NSJP (NIFS-SWJTU Joint Project) において 核融合実験装置CFQSの建設 が進行中。
その中で CFQS工学設計の一環として、実験時 プラズマ閉じ込め磁場に影響を及ぼす可能性のある渦電流をシミュレーションで計算、 加えて 渦電流だけでなく、渦電流による電磁力についても評価した。
これらの評価は論文化されている。
Fusion Engineering and Design, 161, 111869 (2020)
https://doi.org/10.1016/j.fusengdes.2020.111869
・受託研究
実験装置の設計・改良は 試作回数の削減や設計時間の短縮に貢献する。
故に 予めシミュレーションを活用し 効率的構造設計することは 設計要求を満足させることとなる。
この理由から シミュレーション技術は 年々高く評価され 民間企業からの依頼が増加中である。
特に 原子力設備においては、制御盤などの重要機器は国の定められた耐震基準をクリアする必要があり こと耐震解析に関する需要は高い。
受託研究による外部資金獲得は 単に培ってきた技術を広く周知する機会にとどまらず シミュレーション環境の整備や若手職員の育成貢献など 核融科学研究所自体にとって 今後 より一層重要となる活動である。
彼がここまで来るには それなりの岐路、選択 そして 決断があった。
そもそも 彼の知識の基礎となる 「学ぶ」 という過程は 天から自然に降ってきたものではなかった。
現代には珍しく といっていいのだろうか…彼は 高校進学、大学進学、大学院進学…と全ての学習段階の区切りごとに 『何故進学するのか、何をしたいのか、それは自分の人生にとっていかに意味があることなのか』 について 自らの両親に懇親の説明をし 説き伏せ 納得してもらわなければならなかった。
御両親はお二方とも 自分たちのように 高校を卒業したら 早く 社会に出、堅実に労働を対価にし 貢献するという生き方を自身の子供にも望まれていた。
「学問をするために進学する」という発想はなく 義務教育後の高校進学に関しても 実学を身につけられる商業高校進学を 息子に希望されておられた。
皮肉なものである。「頼むから勉強してくれ」とすがる親をはねつけて 学問から遠ざかる者、努力の限りを尽くしても結果として成績に反映出来ない者、文武両道の解釈を間違えている者、豊かさの享受のみ~消費と浪費傾向に既に浸かりきっている者…様々な個性的思考回路で何かと理由をつけて勉学から遠ざかる若人もごまんといるこのご時世に レアなケースであろう。
恐らく 彼の優秀性を見抜いた彼の学校関係者は 強く 彼に レベルの高い進学校への進学を勧めたと容易に推測される。
2~3年おきに繰り返される この両親と対峙しての進路に関するプレゼンテーションは 結果的に 改めて 彼自身に 「何のために 何故 何を成すために どこで何を学びたいのか」 についての自己の意志を より明確に 自己内に言語化する役割を果たすこととなった。どの時代を切り取っても 「今 何故 ここで 学んでいるのか」 について 迷うことはなかった。それは 『何を学ぶべきか』についても同様だった。
昨今の教育環境、学習姿勢について 大いに 考えさせられる事例であるかもしれない。
彼は 地元では有名な進学校 愛知県立一宮高校を経て 名古屋大学工学部に進学する。
ロケット に興味があった。
思い返せば 飛ぶ ということ、または 重力に逆らう ということ、飛翔するということ、そして 飛翔するための形についての 憧れと追求 は早くから持っていた。
大学時代 面白い実習があった。
「屋上から卵を落としても割れないように、段ボールで卵を守る構造物を作れるか」を 科学的に考察するものだった。
そこでまず 卵の構造 について調べた。”卵”の楕円形、その内容物構成…など 結果を成立させる興味深い謎が 沢山あった。
楕円形
卵殻膜
柔らかさ…
全てが完璧に整っている形…
卵 とは 完璧な構造であった。
「いつの日か 卵のような優れた構造物を設計したい」と思うようになった。
名古屋大学入学後 有名な 『鳥人間コンテスト』に挑戦する部活にのめり込む。今でも琵琶湖で開催されている ロングランのあのコンテストである。
最終 実演出場するには 何回ものふるい落としがかかる複数の書類審査を通過し 相当な競争を潜り抜けなければならない。
勿論 参加を決めた時点で 設計と制作は終えていなければならない。かけた努力が全く実を結ばない年も稀ではない。
村瀬氏は 飛翔という実演結果を出すため 設計と計算に没頭する。それは 自然と その後の行く末に通じる訓練となった。
村瀬氏は 物理が好きだ。 実用的ですぐ世の中の役立てることのできる学問である と考える。こと ものづくりの現場では 物理の知識は必須である と思う。
学生時代の専門は流体力学。ロケットエンジンのノズルスカート(いったん流れがギュッと絞られて、また広がるスカートのような形状)の設計やその流れの計算をする。
このノズルスカートは 技術的には ロケットにもミサイルにも 適用される。
そもそも 名古屋大学/大学院時代に修めた航空宇宙工学は広範な工学分野(材料力学、構造力学、制御工学、電磁気学 等々)を広く浅く網羅しており そのため 核融合科学研究所で新たに専門外分野に触れる事態が生じても この時培った基礎力が 新しい学問への理解に特別な抵抗をもたらすことは全くなかった。
大学院卒業後 村瀬氏は三菱重工業株式会社に就職する。言わずと知れた 日本三大財閥系企業である。
三菱重工業株式会社入社の理由は 学生時代扱ったロケットエンジンの噴射流れの研究継続希望にある。
国立大学理系のなかでもトップクラスの就職先だ。 村瀬は ロケット に自分の未来を重ね始めており 宇宙産業に関与する領域を仕事場としたい と望んでいた。
しかし 当時 三菱重工業株式会社は 新たな第一段エンジンの開発は行っていなかった。
※ちなみに 第一段階エンジン開発においては 現在も当時と同じLE-7A型のエンジンが未だ使用されている。
実際の配属先は 同じ空を飛ぶ飛翔体ではあり ロケット同様の技術が求められるものの 宇宙を目指すロケットではなく いわゆる ミサイル開発部門だった。
当時の職務内容は 国の防衛的観点からも また企業内守秘義務の観点からも 口外秘対象であり 出入りに幾度ものチェックがなされる社内勤務体制から類推しても ここで 国のトップレべル技術が扱われていたことは間違いない。
その特別チームの一員として働く日々は 文字通り 「無私」の限界境界域を蠢く日々だった。
勤務状態は過酷を極める。
プライベートな時間があるとすれば ほぼ倒れ込み 寝るだけ…だった。明け方 銭湯に行き しばし休憩して また職場に戻る そんな数年が続く。
村瀬氏は この道の先を生きる自分に 疑問を持ち始める。
ロケット開発に携われないのならば 会社を辞めようか と若さが囁く。
転職 という言葉がチラついた。
しかし 高い給料が 辞める決心を萎えさせる。
そういう時期 たまたま 核融合研究所の記事が目にとまった。
核融合…。高校時代以来 頭をよぎることのなかったワードだった。
面白い…かも?
国家公務員試験の後、連絡をとると 一も二もなく 勧誘…そして 速攻の受け入れ受諾の通知が来た。
ご縁…である。
(核融合科学研究所では 核融合実験装置の燃料となる水素ガスを 装置内に吹き込む際 前述のノズルスカートの設計や計算を活用したりはする 実際には これはほんの一時的な仕事でしかない。)
核融合科学研究所に転職後 給料は大幅に減った、笑。
しかし 生活をきちんと生きながら 働く 人生が戻ってきた。三菱重工時代、ほほ家に帰らない夫を支えていた妻は 突然の転職にも 黙ってついてきてくれた。
感謝のみ…頭が上がらない。
夜 帰宅の折 研究所の出口をくぐりながら 振り返る。 見上げる研究棟に まだまだ研究のため 居残る研究者達の部屋の灯が見える…
研究への情熱が煌めく。
自分も 「さらに貢献したい」 という想いで見つめる。
この才を 今後 いかに活かしていくか。
本人にも 周囲にも 正念場が待っている。
心の解放は コロナ禍をきっかけにハマった釣りの時間だ。誘われた。
海や川の流れを見ていると 妙に落ち着く。
釣りは 最終的には魚を釣ることが目的だが そのための仕掛けが実に多様で 先人の創意工夫がひしひしと感じられる。
インターネットで、「○○釣法が凄い!」などという記事があると ついつい 見入る。いつの日か 革新的な釣法を 自分が編み出してやろう…と密かに野望を燃やしている。
ぐいぐい 趣味に釣られているのは…自分だ!
自然科学研究機構 核融合科学研究所(NIFS)は 2022年度に一つの区切りを迎える。
LHDプロジェクト(大規模学術フロンティア促進事業)が終了し 新たなるステージを迎える。それがユニット・プラットフォーム制の導入。
参照:
核融合科学研究所(NIFS)HP:
そのため 今後 技術職員ひとりひとりの技術レベルが より重要視される。
従来の実験装置の維持管理に加え 技術開発要素の強い案件に取り組まねばならない。
派遣業者、請負業者等のアウトソーシングでは補完できない研究支援を 技術職員が担える未来が要請されるだろう。
応えるレベル、技術、知識、先進性…基礎から応用、新規着想まで 心身共に 成長的前進のみだ。
核融合科学研究所においては 技術職員募集は毎年ではなく また その枠も若干名である。この状況においては 後輩指導は口伝やOJT * になりがちだが、それではいけない。
* On the Job Training : いわゆる昔 技術の世界によくあった「背中を見て学べ」
後継者育成という観点から きちんと「仕事の背景、意義、目的」を説明するように心がけていくべきだ と次への伝承に意識を持つ。
効果的復習を可能にするには資料が有効だ。
教える度に資料を作成することは大変ではあるが 常日頃から 仕事の資料化を当然のこととし 教育用にはそのアレンジを転化する未来対応布陣を実践している。
人に伝承する…いわゆる「教育」とは 「ただ学びたいように自由選択できることだけでは理想には近づかないのではないか」 と思うようになった。「世の中に溢れかえる情報の中から 各人がそれぞれの特性や希望を基に 整理・加工・提供できるようにシフトすることではないか」 と考える。
地上の星たちは 煌めく
そして 連なって 地上の太陽をつくる
それが 時代の優達の輝き方だ
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(文・構成:前澤 祐貴子)
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