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老成学研究所 > 時代への提言 > 核融合科学研究所&哲理人シリーズ > 核融合科学研究所シリーズ 4⃣: ⑵ 哲理人Profile No.4 長壁正樹 ; 核融合科学研究所 教授 & 大型ヘリカル装置計画 実験統括主幹 & 文部科学省 科学官 (研究開発局)
《はじめに》
未来社会を持続可能にするためには その重要な条件群の一つであるエネルギーについて考えねばならない。
本シリーズは、老成学研究所が核融合科学研究所と合意の上 ”核融合” という新しいエネルギー確保の道を多様な観点からご紹介・情報発信することを目的としている。
以下、掲載されている写真/画像群については、核融合科学研究所の許諾のもと、核融合科学研究所管理下の写真/画像群を使用させていただいていることを予めお断りさせていただきたい。
核融合科学研究所シリーズ
No.4 ⑵
哲理人 Profile No. 4
長壁 正樹
その人は静かだった。
自分のことは 「敢えてあまり語ってこなかった」 と言う…
質問のひとつひとつに 質問する相手の意図と立場を瞬時に掴み取り、
起承転結、 理路整然、客観的 に
穏やかな口調と丁寧な説明を
相手がわかるまで尽くす。
才あるからこそ出来ることを 大したことない当たり前 とし、
諸般の事情で出来ないことを 我が課題と位置付け その解決に勤しむ。
そういう生き方をしてきた男なのだろう と思わせた。
そんな男がいた。
立場とは 欲して与えられるわけではないが
与えられた場合 その果たし方に 個人が映る。
自らを 敢えて称すならば『バランスが取れているかな』と称すその男は
世界の核融合研究分野を牽引する現代日本で
重水素実験推進本部 本部長を務め、
大型ヘリカル装置計画をまとめ上げている。
失敗は微塵たりとも許されない。
どんな理由であれ 結果的失敗は 分野の後退に直結する。
後退が撤退を呼び込むリスクすらある。
失敗できない成功 である。
100%の成功には
成功をもたらす条件整備に超高度難関微細な項目群が並ぶリストをクリアさせ
批判と非難すら含む恐れのある質問やクレームに完全に
答え、応え、対処するものでなくてはならない
文字通り 「針の穴を通す」ような実地対策を実際に講じなければならない。
その重責が 神経を休めることはない。
核融合科学研究所には同敷地内に
核融合分野に関連する研究基礎を学ぶ大学院大学、
総合研究大学院大学核融合科学専攻(総研大)が
1992年 設置された。
その男 長壁正樹教授は その第一期生である。
多くの人の進学・就職が 偶然の導きであるように
長壁教授の進学・就職も大学院時代の指導教官の都合であった。
名古屋大学大学院 原子核力工学科から 博士の学位課程を取得する過程が
総研大進学、その後の核融合科学研究所就職に繋がる。
そして 長壁教授は 以後 プラズマ・核融合学会で目覚ましい活躍をする。
2014年 科学技術部門における文部科学大臣表彰 を受け、
2021年には プラズマ・核融合学会 第29回論文賞という誉高い賞を受賞した。
さて それは 果たして 【どれぐらい凄い】ことなのだろうか?
一般人には到底理解し得ないレベル内容ではあるが、
参考までに 彼の論文を何本かリストアップする。
M. Osakabe, 他, “Recent results from deuterium experiments on the large helical device and their contribution to fusion reactor development”, Nuclear Fusion 62 (2022) 042019、https://doi.org/10.1088/1741-4326/ac3cda
M. Osakabe,他, “Preparation and Commissioning for the LHD Deuterium Experiment”, IEEE Tansactions on Plasma Science 46, 6, (2018) pp.2324https://doi.org/10.1109/TPS.2018.2825423
* https://doi.org/10.1109/TPS.2018.2825423
M. Osakabe,他, “Current status of Large Helical Device and its prospect for Deuterium experiment”, Fusion Science and Technology 72, 3,(2017) pp.199
M. Osakabe, 他, “ Impact of carbon impurities on the confinement of high-ion-temperature discharges in the Large Helical Device”, Plasma Physics and Controlled Fusion 56 (2014) 095011
M.Osakabe, 他, “Fast-ion confinement studies on LHD, Fusion Science and Technology vol.58, 1, (2010), pp.131
M.Osakabe, 他, “Experimental observations of enhanced radial transport of energetic particles with Alfven eigenmode on the LHD”, Nuclear Fusion, Vol.46, 10, (2006), pp.S911
等々…
例えば 最初の3篇は、長壁教授が推進本部長として推進したLHDにおける重水素実験の準備・検討、初期結果、及び最近の成果をそれぞれ論文としてまとめたものである。
準備・検討や初期結果をまとめた2番目と3番目の論文の評価は非常に高く、クラリベイト・アナリティクス社の論文データベースWeb of Scienceにおいてトップ10%論文として選ばれている。
※ 勿論、これらの論文に示された成果は、長壁教授1人の業績によるものではなく、彼がリーダーとして推進したプロジェクト全体の成果によるものである。
優 とは 一朝一夕で養成できるものではない。
全体主義的国家における半ば強制的選抜や育成とは異なり
ここ 日本では
自主的に 自らの興味と才能と自己実現意欲、そして 貢献の精神 により
各分野に 優が散らばる。
当然ながら 中には その才の優性を速やかに成就させる環境整備のため
その貢献・還元先に母国を選択しない優群もいる。
日本においては 特に ”核”を冠する学問に関しては 複雑な歴史が過去横たわる。
第二次世界大戦における二度にわたる原子爆弾投下、昨今では 東日本大震災における原子力発電所群からの放射能汚染…日本においては この20世紀半ばから 現在に至るまでの期間に 多様な”核”にまつわる大きな災禍・事故が勃発し続けた。
結果、 ”核”という文字に対しては 生理的に拒否反応 という空気すら巷に漂う。
あらゆるスクラムで 兎にも角にも 「”核”のような危険物には関わらないことがひいては皆の幸せである」という固い信条で 積極的に批判・反対・阻止活動されておられる個人、集団が存在するのも事実だ。
しかし 総人口1億を超える国民が 今後のエネルギー問題を抜本的に解決する方法論を模索する時
半永久的稼働可能なエネルギー確保の担保を 可能な限り持ちたいのは 国家存続のための悲願といえる。
資源が乏しき日本…
不安定な世界情勢…
核融合発電に必要な
太陽 と 水 と 頭脳 だけは 日本に満ち溢れている。
誤解されることが多いが
「核分裂」と「核融合」は 真反対の物理反応原理を基にする。
故に その活用において 理論上でも 実験運転レベルでも 心配レベルには至らないことが既に証明されている。
この核融合への認知と理解こそは 今後の大いなる課題である。
故に 今
長壁教授
専門知識、バランス感覚、冷静な分析、柔らかな対応 を総動員し
日本のエネルギー問題の半永久的解決方法、
核融合発電実現のための熾烈な闘いに身を投じている。
長壁教授の心休まる場所は 意外なことに with 猫 の時空間 だ。
拾い猫4匹が 疲れた心身を癒す大きな役割を果たしている。
左から ゴマ、キナコ、
ナッツ
クルミ
中でも キナコは最も懐いている愛猫。
最近 心臓に問題があると獣医に指摘され、心配でたまらない。
日常は 研究、教育、広報、運営…に忙殺されている。
ふと 窓外に目をやる。
木曽の御嶽山が峰をみせる。
心が ほんのひととき その雄大な景色に飛ぶ。
実は 長壁教授は かなりのクライマーだ。
学生時代、日本の歴峯を制覇した。
登山で培った「準備、訓練/鍛錬、リスク想定…」への抑えは
現在の仕事管理に通じるのかもしれない。
重量を上げたリュックを背負い 学舎の階段を登り降りした日々は 本当に懐かしい。
愛妻とも野外関係の活動で知り合った。
そんなわけで 若かりし日は 家族と共に山歩きにいそしんでいたが、
このところ それが 神社巡りにとって変わってきた。
そうやって なんとか
「心身を解放する時をもとう」と心がけている。
最近も 地域の里山にある祠を大掛かりに清掃した。
コロナ禍で 地元の地域活動に制限がかかり 荒れ果ててしまっていた。
見違えるほどに復旧した佇まいに ほっとする。
核融合科学研究所の研究者・職員は 地域住民との信頼関係 を非常に大切にする。
それは ひとつひとつ
丁寧に 時間をかけて 誠意を込めて積み上げてきた
大事な関係だ。
その信頼は
核融合実験における放射能汚染や実験の運行・失敗における災禍について
安心を担保する説明、納得していただくための
住民説明会からスタートし、
ご理解と了承を公的に取り付けた現在でも
あらゆる疑問・質問に応える体制を崩さず
過去に培った信頼関係を裏切ることのないよう
最大限の配慮と対応を敷いている。
説明会、講演においては 事務方のみならず 専門首脳陣が臨席する。
常に専門的見地からの回答が可能なようにするためである。
長壁もその一人であり、矢面には 自らが対峙する。
丁寧な積みあげは 麓から一歩一歩
着実に歩を進める 登山のようである。
長壁教授は また 国立大学法人 総合研究大学院大学 物理科学研究所 核融合科学において
核融合システム講座を担当する教授でもある。
その講義は全て英語で行われる。
ご本人は仰る
「専門用語がそもそも英語であるため さして難しいことではない」と。
次世代の人材育成は どの分野にも共通の 後継者問題を孕む。
世代特有の感覚差、教育体制の変遷など現代ならではの様々な課題も加わり、
「次を担う代を育てる」仕事は それなりに負荷が大きい。
しかしながら やはり続く人材に 未来を牽引する希望と期待を描く。
核融合は 既に走り出している。
その困難さが 歩みの速度を 制限することはあっても
止まることはない。
上下左右、オールラウンドの視野を視界におさめ
核融合発電実現の重いリュックを
下ろすことなく 背負い
バランスをとりながら
一歩一歩
頂きを目指しながら 踏みしめていく男の姿に
国運がかかっている。
頂きについたら やっと リュックをおろして欲しい。
見える景色は 絶景だろう。
長壁正樹 という男
めり込みそうな重量のリュックを背負い
核融合発電という山を登山中である…
(文・写真:前澤 祐貴子)
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