交流の広場
老成学研究所 > 時代への提言 > 『ART/ Photo Essay』 RYO NAKAMURA 11作品 > わらうって光
彼はとうに90歳を超えている。
第二次世界大戦では、日の丸を背負って海外に出兵した。
戦後は日本建築の建具職人として、身を粉にして働き家族を養った。
今もなお鮮明に覚えている。
小柄ではあったが、大きな材木を軽々と担ぎ上げる筋骨たくましい体を。
仕事に向かう時の厳しく鋭い眼光を。
荒々しく硬いてのひらの感触を。
お前のやりたいことを応援する、と言ってくれた温かく力強い言葉を。
時が流れて、彼は視力を失った。
歩くことも難しくなった。
細くなってしまった体に触れるたび、優しく微笑む彼の瞼の奥には何が映っているのだろう。
同じ時代、同じ星、同じ国、同じ場所で一緒にわらいあえるということ、
きっとそれは、僕らを確かに繋ぎ共有する同じ色の光だ。