活動の実績

老成学研究所 > 活動の実績 > 日本哲学 > 老成学と東アジアの形而上学

老成学と東アジアの形而上学
活動の実績 | 2019.05.09

第4回日中学術シンポジウム/2017.8.26/名市大(山の畑キャンパス)

テーマ:超高齢社会における「東アジア形而上学」の可能性

 報告2

森下直貴

東アジア形而上学と<垂直のコミュニケーション>

要旨

①東アジア世界の形而上学の背後には国家祭祀としての伝統的な宗教思想がある。形而上学をたんに存在論として抽象的に論じるのでなく、宗教と国家の問い直しへと向けて具体的に捉え返す必要がある。②そのためにこの報告では超高齢社会の到来を見すえた<老成学>の視点を導入する。焦点は<互助>と<誇り>を再創出する老人世代のコミュニティ形成である。ここで問題として浮上するのが「孝」である。東アジア世界の伝統では「孝」は家族倫理の要であり、そのことによって普遍道徳や国家倫理の支柱とされてきた。この報告では<垂直のコミュニケーション>に着目し、③国家祭祀としての宗教に包摂された形態から、④(親=死者と生者=子の)慰霊という根源の形態へと遡りつつ、⑤しかし親族・血縁ではなく新たに身近な他者の<友縁>を紐帯とする形態として位置づけ直す。⑥その上で新たに連関的に把握された<水平のコミュニケーション>と接続させる。⑦ここに抽象的な「即」の論理を乗り超える哲学の可能性がある。

1. 西田哲学と東アジア形而上学

・西田哲学:非連続の連続→絶対矛盾的自己同一→弁証法的世界、歴史的操作の論理

  一個の根本命題から多様な現象世界(数理、物理、生命、社会、国家)を再構成

  即(あるいは即非)の論理:A=非A(弁証法+般若の論理)→区別・連関の欠如

・東アジア形而上学の伝統?
  存在-場所-論(西田)、天台宗(朝倉)、形の論理(木原)、現象即実在論(井上)etc.
  形而上学の前提(背後)にあるのは宗教→国家祭祀

・思想(全体社会の反省)の現在:四つの立場の膠着・閉塞状況

  実用型(自由)、共同型(共生)、統合型(平等)、超越型(無差別)
  隠れた争点:「神道」は宗教か?→明治から今日に至るまで未解決

・宗教と国家の問い直しへと向けて形而上学を具体的に捉える必要

2. 老成学の視点と「孝」の問い直し

・近未来の超高齢社会
  長寿化・少子化・過疎化・個人化→全世代を貫く貧富二極化、分断の進行


・老成学:<老いの中の生>の問い直し→プロセス的、再帰的
  老いた個人の精神的基軸(信念)=老いた全体社会の思想的支柱(理念)

・焦点は<老人世代によるコミュニティ形成>→総合的老人観
  共助とくに<互助>+老いに対する<誇り>→親子関係を超える方向

・問題としての「孝」:家族倫理の要→国民道徳(忠)の基盤

3. 国家祭祀としての宗教と宗教以前

・原始社会の人類:宗教以前の道徳的直観→和解・共感・位階・互恵→暗黙の倫理

  家族・親族集団の統合→死者(親・父)の葬送儀礼・慰霊(供養)

・集団の複雑化→内外の対立・分裂→統合への新たな仕組み(装置)=宗教

  三要素:超越的存在(絶対的権威)→媒介(シャーマン・シンボル)→情動的一体性

・絶対的権威:神々、神、天、祖先→祭主(皇帝)・シャーマンの権威
  古代日本:もの神(自然)→たま神(霊力ある巫覡)→巫覡集団(天皇家)


・国家(国)と宗教の同時発生→本質的一体性、宗教=国家祭祀

・近代・現代の国民国家(最大の機能包括型コミュニティ)の四機能:
  実用面(経済)、共同面(社会)、統合面(政治)、超越面(文化→宗教)

4. <慰霊>としての<垂直のコミュニケーション>

・死者と生者の<慰霊(供養)>のコミュニケーション

  生命の時間軸→年代・世代軸に沿った<垂直のコミュニケーション>

  人類社会に共通→デジタル時代でも持続 cf. デジタルシャーマン(ロボット)

・呪:前宗教的呪と呪術的宗教の区別(中間的移行形態はある)

  慰霊→儀礼と神話:我々はどこから来てどこへ行くのか?

  シャーマン:神話(言語)と儀礼(実践)の操作→末裔が哲学者(形而上学者)!

・原始社会:家族・親族内<垂直のコミュニケーション>

・国家祭祀=宗教による権威化・超越化→宗教的<垂直のコミュニケーション>

5. <垂直のコミュニケーション>の拡張と<友縁の孝>

・<慰霊(供養)>のコミュニケーションの拡張

  親と子→死者と生者→生者と生者(老人と老人、老人と若者)
  →生者と未生者→人と生き物(動植物)、人と環境

・老人世代が関与する世代的<垂直のコミュニティ>
  語る/語られる→見る/見られる関係→恥ずかしくない生き方=誇り→死後の希望

  語り・ケア<世話=世間話(おしゃべり)、高齢者介護<養老(老いの生の互助的養成)

・血縁による孝から世代内・世代間の友縁による孝へ

6. 垂直と水平のコミュニティの接続

・水平のコミュニケーションの機能分化
  生命の空間軸→機能的(代替可能な)コミュニケーション

・全体社会の四領域:
  実用領域(生活、労働・産業、技術、市場)、共同領域(保育・看取り、福祉、医療、教育)
  統合領域(公論、政治、法、行政)、超越領域(遊び、芸術・スポーツ、科学、哲学・宗教)

・老人世代によるコミュニティ(コミュケーションのつながりの担い手)形成
  垂直と水平のコミュニケーションの接続→生命の螺旋運動
  老人世代の年代層に対応する三つの山場

7. 哲学を<一般的図式>として具体化し活用すること

・常識・科学・思想→前提の問い直し→直観と論理によるメタ知
  ①意味:身体の分割+記号の指示→分割の分割→四極構造 →要再考!
  ②論理:A / 非A(境界の論理)→A≠非A、非(A≠非A)、A=非A、非(A=非A)

  ③形而上学:現象世界の存在条件→根本命題(形、動き、接続、型、接続体)

  ④コミュニケーション:理解のプロセス→四群分化→社会の四領域

  ⑤一般的図式:人間の生の基本構造→四領域多層構成

・一般的図式→形而上学と現象世界の媒介→常識・科学・思想の変容への促し

・特殊性(東アジア)から出発して普遍性をめざす途上で個性を実現

*参考文献(一部):

・朝倉友海『「東アジアに哲学はない」のか』岩波現代全書、2014

・中島隆博『共生のプラクシス:国家と宗教』東京大学出版会、2011

・木原伸夫『邂逅の論理』春秋社、2017

・野田又夫『哲学の三つの伝統』岩波文庫、2013

・山内得立『ロゴスとレンマ』岩波書店、1974

・井筒俊彦『意識と本質』岩波書店、1983

・白川静+梅村猛『呪の思想』平凡社、2002

・ニコラス・ウェイド『宗教を生みだす本能』NTT出版、2001

・池澤優『「孝」思想の宗教学的考察』東京大学出版会、2002

 
一覧へ戻る
© 老成学. All Rights Reserved.
© 老成学. All Rights Reserved.

TOP